真紅と紺碧の閃光Ⅳ
ふと、気が付くとユーキはうつ伏せに倒れていた。
確認しようと首を動かすとサクラたちは近くにいない。どうやら四人揃って下の地面から飛び出てきたバジリスクの胴に弾き飛ばされたらしい。水球が衝撃を吸収してくれたようで、辛うじて怪我はないが、サクラたちと大分離れてしまったようだ。
「しまった……みんな、どこに!?」
体を引き起こすと真っ先に飛び込んできたのは、バジリスクの瞳だった。
ラミアの時と同じく、体中の筋肉が吊ったかのように引き攣る。体全体が強張り、身動きが取れなくなった。
「(くっそ……。何が原因だ。何かこの状態を打破する方法は……?)」
ユーキは魔眼で自分の体を見ると、自分の体の中に石化の魔眼から放たれたオーラが侵入してきているのがわかった。
「これを……追い出せれば……あるいは……!」
体の内部に残った魔力を身体強化へと回すと、徐々に紫と黄色のオーラが自分の体外へと押し出されていく。
体の自由が利き始めて、やっと周りを見渡す余裕ができた。そして、自分の左前方。バジリスクの魔眼の圏内に、サクラたち三人が立ち上がろうとしたまま動けないでいるのが見えた。
「――――あ」
バジリスクの口から洩れる甲高い音が、石化の魔眼が、闇の中でも煌めく毒牙が。僅かな身動きでさえ、恐怖の琴線を刺激する。
辛うじてサクラが杖を構えられたのは、背後で気絶している二人を守らなければという想いからだろう。だが、それすらも石化の魔眼の前では無力であった。
「サクラさん。逃げてください!」
遠くからアルトの悲鳴が響き、ソフィアとマックスが猛スピードでバジリスクへと突貫する。二人は一歩踏み出すごとに、地面を割るのではないかという程の土埃を上げて疾駆する。身体強化へと魔力をかなり注ぎ込んだのであろう。魔眼の効力圏内であっても、二人の速度は衰えず、魔眼から放たれる魔力を弾き飛ばす。
「アストルム様。アレを使います!」
「許可します!」
ソフィアの声に、即座にアルトは反応して見せた。
アルトが許可を出すと信じていたのか、その手から刃毀れした剣が投げ捨てられる。
「『来い! グラム!』」
夜の闇を引き裂いて、一条の光がソフィアの手の中へと納まる。
聖教国に眠る秘宝の一つ。聖剣グラム。聖女に仕えた騎士が魔王討伐の際に使った剣である。
そのもっとも有名な逸話は邪竜殺し。魔王とは別の勢力を誇っていた邪竜から村人を救うために、護衛騎士が放った聖剣の一撃は、勇者ですら苦戦した強靭な鱗を貫通し、その首を斬り落としたとされる。
「――――この聖剣なら奴を切り殺すことは容易い。だが、殺したところで奴の血飛沫が舞ってしまっては本末転倒も良いところだ。故に取るべき策は一つ!」
流石に自分へと向かってくる敵意を察知したバジリスクは、その体を地面からさらに引きずり出し、ばねのように体をうねらせて伸縮させる。
ソフィアとマックスがサクラの下へと到達すると同時に、巨体からは想像もできない速度で彼女たちを飲み込まんと咢を開いた。
「遅い!!」
ソフィアが聖剣を振りぬくと、ハンマーで殴ったかのようにバジリスクが大きく天へと仰け反った。
「今の内に三人を!」
「任されたっ!」
そう言うや否やマックスは気絶したアイリスを脇抱えにし、その手でマリーの首根っこを掴む。残った手でサクラを肩へと担ぎあげて、そのまま脇目も振らずに撤退を開始した。
もちろん、女子とはいえ三人も抱えているのだ。その足取りは重いが確実に距離を稼いでいく。
「あ、あの、ありがとう、ございます」
「まだ油断するな。アイツを何とかしない限り、俺たちの命はないも同然だ」
サクラが顔を上げると、天から顔ごと振り下ろして叩き潰さんとするバジリスクに対し、ソフィアが剣の横腹で殴り飛ばすという光景が入ってきた。バジリスクの動きを完全に見切り、カウンターの要領で確実に顎や顔の横を叩いて攻撃を逸らし、ダメージを与えていく。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




