真紅と紺碧の閃光Ⅱ
一瞬で岩が打ち砕かれ、辺りに人一人分くらいの大きさになって飛び散る。
後ろに隠れていた暗殺者たちは、それを避ける間もなくユーキのガンドが地面に当たったと同時に、爆発を起こした衝撃で吹き飛んだ。
岩が落ちてくる前にサクラとマリー、二人合わせて三十二本の閃光が夜の闇を裂いて疾駆する。急いで魔力を込めた為、手数は少ないが、それでも落ちてくる岩も合わせれば相当な数になるだろう。
流石の障壁も百キロ近くの岩が時速四十キロで突っ込んでくれば、無事では済まないだろう。現に多くの者が体を押しつぶされ、気絶していった。運が悪いものは、そのまま即死しているだろう。
「よし、なんとかなっ――――つぅ!?」
ガンドを放った後に猛烈な反動が返ってきた。痙攣は治まったが火傷のような痛みとむず痒さが皮膚の下に広がっていく。
左手で抑えながら周りを見渡すと、アルトはソフィアに守られているが、暗殺者に囲まれ動けない状況だ。逆に暗殺者からすれば、それ以上は迂闊に近寄れず膠着状態とも言える。
同様にマックスはレナを庇いながらソフィアの近くまで接近できたおかげか、倒れている二人をレナに任せて、ソフィアの空いた隙をカバーしていた。
そして、オーウェンたちがいる方へと顔を向けると、倒れた水が球状に渦巻いている。何事かと思っているとウンディーネが語り掛けてきた。
『オーウェンさんがやられました。今は意識を手放す前に魔法を発動してエリーさんと一緒に、あの中にいるようですが、破られるのも時間の問題です』
「最悪だ。そっちに援護は回せ……ないよな」
『はい。この巨体を何とか封じ込めるだけで精いっぱいです。なんとか魔力を通して氷を維持していますが、地上の音に反応して暴れだしてます』
どうしようかと悩んでいると、水球に阻まれていた暗殺者がおもむろに杖を掲げた。
「大変! 今度はあっちの方も破壊されたら……!」
「いや、違う。今度は氷自体に岩の槍をぶつけるつもりだ」
目の奥がズキズキと痛むが、ユーキは構わず魔眼を開いていた。
魔力は地中から氷の真横に向けて伸び始めている。力の逃げ場がない以上、氷は攻城兵器で打ち破られたかのように粉々になってしまう。仮にそうでなくても、かなりの罅が入ることが予想される。
そうなってしまえば、体を動かす余地ができたバジリスクを止められるものはいない。せめて氷による体温の低下で動かなくなっていてほしいと願うが、ウンディーネの様子からそれも無理に等しい。
「この距離からなら、何とかいけるか!?」
「ユーキ。ここはあたしらに任せな」
「だけど!」
「ユーキさんの威力だとオーウェンさんまで巻き込んじゃうかもしれない。でも、私たちならできる」
「――――頼む」
一度は刃を交わしたとはいえ、共同戦線を張る仲間の危機を見ているしかできない。
無力感がユーキの肩へと圧し掛かる。ユーキにできるのは、せめて生き残りが後ろから襲ってこないように見張り、牽制することくらいだった。
「「『燃え上がり、爆ぜよ。汝、何者も寄せ付けぬ一条の閃光なり 』」」
魔法による狙撃。火球は本来、野球選手が投げるような速さで飛んでいくもので、ユーキが放ったレーザーのような速さが出るものではない。
しかし、イメージという物が後押しするのも確かで、ユーキが以前はなった魔法を間近で見ていたサクラたちは、その魔法へとイメージが知らず知らずのうちに引っ張られていた。
暗殺者の杖が振り下ろされる瞬間、その腕と腹へ二発の魔法が直撃する。
「があああっ!?」
思わずその場へ蹲る男をもう一人が首根っこを捕まえて、後ろへ引き摺り倒した。
「くっ。まだ崩して切っていない土の影へと隠れやがった」
「でも、これで時間は稼げるよね」
「すごいな。二人とも……」
学校が用意している魔法の射撃をはるかに超える距離と精度で狙撃した。しかも、一方は杖を振り下ろす最中の腕だ。狙ってできるようなものではない。
ユーキが見惚れていると再び地面が揺れ、嫌な音が周囲に響き渡った。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




