真紅と紺碧の閃光Ⅰ
暗闇で剣戟と共に火花が飛び散る。
キャロラインとレベッカが暗殺者の男たちを押し返そうと剣を振るうが、寄れば逃げ、引けば飛び道具が襲ってくる。
宵闇の中で防ぎ、躱しきるのは難しく、オーウェンと同様にその身を地面へと横たえる。彼よりも長く立っていられたのは、彼女たちが毒を浄化する魔法を習得していたからだが、それでも完全な解毒には至っていなかった。
普段使っている全身鎧なら、毒のついたナイフ程度を脅威にすることなどなかっただけに、二人の顔は悔しさにに歪んでいる。
唯一、ソフィアだけがアルトを守り通しながらも毒の影響を受けていなかったのが幸いして、暗殺者もそれ以上は近づけずにいた。
「ちっ! やっぱり護衛にいるとは思っていたが厄介だな」
「無礼者共が、このような状況でなければ、その首を即刻斬り落としてやるものを」
「流石のあんたも無防備な聖女様を守りながら戦うのは難しいと見た。アレを使われたら厄介だ。悪いがこちらは遠くから戦わせてもらうよ」
「外道が!」
ソフィアは舌打ちして周りを見る。開けた場所故に本気を出せば、雑兵にも等しい暗殺者を一撃で葬ることができる。それをやらないのは、今の手持ちの剣では出力不足。かといって、暗殺者の言うアレを使えば確実に余波でアルトの魔法を邪魔してしまう。
今の彼女にできることはアルトを守りつつ、バジリスクが大人しくなるまで時間を稼ぐことだけだ。
そんな目の端で炎の柱が上がるのを捉える。
「あのガキ! こんな広範囲に魔法を!?」
「悪いね。こちとら、お前らみたいな奴を相手してる暇ないんで、さっさと消えろ。おっさんども」
マリーの火の魔法が暗殺者たちの足元で爆ぜるとその体を付近の土ごと吹き飛ばす。そこへサクラが石礫をショットガンのようにばらまいていく。
いくら障壁や身体強化の魔法があるからと言っても、炎や石が高速で迫ってくる光景には余程慣れていない限り、反応が遅れるものだ。訓練された暗殺者であっても、その半数は一瞬の判断を誤り、魔法に迎撃されていく。
「暗殺者だからって毒とナイフで戦おうっていうのは、ちょっと発想が古すぎないか? おととい来やがれ!」
マリーが大声で怒鳴るが、被弾を免れている男たちには勝利を確信しているかのような笑みが浮かんでいた。その表情に一瞬動きが止まったマリーではあるが、気にせずに魔法を放とうとしたところで、はっと地面を睨んだ。
「サクラ! 何かおかしい。また地面が揺れ始めて――――!?」
「お前の言う通りだ。大規模な魔法を使わない暗殺者なんて、今じゃ時代遅れだな」
土魔法の岩の槍。それもかなり大きなものが地面からそそりたつ。
しかし、その矛先は誰にも向かず、ただ天へと至るかのように真上へと突き出された。
「壁……? 私たちの攻撃を防ぐ盾にするつもり?」
大きく揺れる地面に思わず、その場で片膝立ちになる。
岩が完全に出現したにもかかわらず揺れが続くのは、更に第二第三の土魔法が来るからだろうか。
「ユーキさん。何をして来るかわからないから、前に出ちゃだめだよ。それに体調が戻ってないんだから無理をしたら……」
「――――まずい!」
「えっ!?」
サクラに庇われる形になっていたユーキは、思わず地面の下を凝視して大声を上げていた。
暗殺者たちの狙いはアルトだ。つまり、アルトを殺すことが目的ではない。アルトが死ねば奴らの目的を達成できるからだ。
「俺たちの作った牢獄に……穴を開けられた」
「そうか、さっきの土魔法で地中の土を移動させたのか!?」
マリーが慌てて突き出た岩の向こう側へと攻撃しようとするが、それは届くことはなかった。
「直接攻撃による陽動。本命は堤防の決壊ってことか。バジリスクを解き放って、聖女が死んでしまえば誰が殺したかなんて関係がなくなるもんな」
「盾で自分たちを防御しながらネチネチと工作活動。悪党らしいけどむかつくぜ」
「そんなことより早く対処しないとバジリスクが逃げ出しちゃう!」
サクラとマリーの言葉に、覚悟を決めたユーキはガンドの為に魔力を装填する。
右肩から指先まで魔力が通る架空神経が悲鳴を上げる。今にも皮膚を突き破って血が噴き出るかと思うくらいの痛みに顔を顰めた。
筋肉が痙攣を起こし、左手で手首を抑えないとまともに照準すら定められない。
「俺があの岩の盾を吹き飛ばす。後ろにいる残った奴を頼む」
「……わかった。私も次の一撃で決める。こんなところで、みんな死ぬわけにはいかないんだから」
サクラが火球の詠唱を始めるとマリーも即座に詠唱を始める。
ユーキは僅か二秒程度の詠唱を聞きながら、ガンドを放つタイミングを見計らっていた。その時間があまりにも長く感じられ、意識が遠のきそうになる。
「「『――――汝、何者も寄せ付けぬ――――』」」
「喰らえっ!」
「「『――――十六条の閃光なり!』」」
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