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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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火を避けて水に陥るⅤ

「――――過冷却、ですか?」


 数時間前に、ウンディーネはユーキに言われた言葉を繰り返して、首を傾げていた。ユーキの言葉は彼女には馴染みなく、また、あまりにも常軌を逸していて、何を言っているのかよくわからなかったからだ。


「あぁ、ゆっくりと時間をかけて氷になる温度まで下げると水のまま氷と同じ冷たさになる、って言えばいいかな?」

「そんなものはあまり見たことがありませんが」

「そうだね。条件がすごい難しいんだけど、衝撃を与えた瞬間に氷になってしまう。だからこそ、お願いしたいんだ。()()()()である君にしかできない大仕事だ」


 ユーキは作戦を立てる時にウンディーネへと頭を下げた。フランと同じく、大量の魔力を使ったことで消失しかけた彼女に、危険な役目を押し付けることになるからだ。

 一瞬の沈黙の後、ウンディーネは頷いた。


「構いません。そんな化け物がいるとはおもいませんが、事実だとしたら、大地と生命の源にそのような毒物をまき散らすわけにはいきませんからね。あなたの言った通り、()()()にして差し上げます」

「風、地面あらゆる場所からの振動を考えると外側には零度に満たない水で緩衝地帯を準備しておくといいかな」

「あの、私だからできますけど、かなり難しいことを要求しているのはわかってます?」

「もちろん。だからこそ、最初に話をしようと思ったんだ」


 ユーキの即答にウンディーネは頭を抱えたくなったのは間違いないはずだ。

 ただ、元の能力では無理だったが、先日吸収した魔力のおかげで操れる魔力がかなり増えた。要求された水の温度変化、二重構造の水の構築、大量の水の誘導操作。人間の一般的なレベルの魔法使いなら十数人レベルで行う大規模作業なら何とかできないことはない――――正しい知識があれば、ではあるが。

 日が暮れる前からずっとため池の近くでウンディーネは実験を繰り替えした。最低限の知識が得られたのなら、後はトライ&エラーでコツを掴むまでだ。

 その練習の間にサクラやオーウェンたちはため池を()()。深さも広さもバジリスクが中にすっぽりと入ってしまうくらいにまで土魔法で広げ、更に壊されないように固めていた。

 即ち、今この瞬間。バジリスクが入ったのは大農村のため池ではない。対バジリスク決戦トラップ『瞬間氷結監獄(コキュートス)』である。

 氷に覆われて悲鳴すら出すことができず、バジリスクは再び監獄の中へと叩き落される。それと同時に地面へソフィアが降り立った。


「今のは危なかった。あと一秒遅れてたら完全に抜け出されるところだ。次! 急いで!」


 聖女を演じる必要がなくなったソフィアは、黒騎士隊の隊長らしく声を張り上げて指示を飛ばす。


「了解ですよ。まったく黒騎士隊の隊長様も人使いが荒い!」

「会長。口より魔力を回してくださいっ!」


 オーウェンとエリーが剣と杖を振るうと氷の形成が一気に早くなる。加えて、ウンディーネが衝撃緩和に回していた分の魔力が追加され、バジリスクの体を更に氷が包んでいく。

 バジリスクが暴れて罅割れていく側から、アイリスが水を補充し亀裂を埋めていく。いたちごっこのようだが、バジリスクは最初の大暴れを除き、水面になかなか姿を見せなくなった。


「しかし、不思議だね。あんな巨体なのにたかが氷で封じ込められるとはさ」

「どんな魔物だろうと生き物なんだ。それに蛇は自分で体温を上げられない。周りの温度で活動が制限されてしまう種族が多い」


 隣で聞いていたサクラは、それでも首を傾げる。

 蛇はたいてい変温動物で冬に冬眠するものが多い。それがバジリスクに当てはまるかどうかは疑問ではあるが、現に足下の振動は遠のいている。サクラの疑問は、その早さにあった。


「いくら寒いのが苦手でも、そんなに早く効くのかな?」

「だからこその家畜たちさ。表面は焦げていたけど、その中身までは確かめられないさ」


 ため池の氷だけでは突破される可能性が高い。だからこそユーキは、もう一手。いや二手打っていた。


「家畜の中には血液を凍らせたまま詰めてある。そんなものを二十も三十も丸のみにすれば体の芯から冷えてくるだろうね。まぁ、それをギリギリまで準備していたのがフェイたちなんだけど、あっちで何事もなかったと思いたい」


 そう呟いてユーキはソフィアの着地した後ろで魔力を注ぎ続ける三人へと目を向けた。

 駄目押しの一手はアルトたちだ。光魔法による幻覚。アルトが幻覚を映し、キャロラインとレベッカが光を水底に映し出す。水の中でも重力はあるが、浮力で地上よりは軽減される。

 暗闇が加われば上下など容易く見失うだろう。ましてや判断が鈍り始め、命の危機に混乱状態なら術計に陥るのは仕方のないことだ。

 罅があちこちに入った巨大な池は、何度か轟音を響かせ、隆起と沈降を繰り返していたが、やがて静まり、一分も経つ頃には完全に沈黙していた。

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