火を避けて水に陥るⅢ
村を業火が覆い尽くす。元々の火に後押しするように火の魔法が放たれれば、まさに地獄が姿を現したように天まで朱色に染め上げた。
「流石、フラン。ガトリングも真っ青な連射だな」
バジリスクの周りの家々が一瞬にして燃え上がり、崩れ落ちていく。遠距離からの無差別放火の為、フランの位置を特定することができなかったこともあるのだろう。バジリスクが慌てて広場から逃げ出そうとしていた。
「最初から魔法で燃やさなかったのは、これが目的?」
ユーキの耳元でアイリスの声が響く。マリーの後ろにいたはずが、いつの間にか近づいていたようだ。
「あ、あぁ。それにいくら連射力があるとはいえ、時間差が生まれるからね。ある程度、炎の壁を完成させておかないと面倒なところに逃げ出されるから」
「フェイや槍使いの兄さんは大丈夫か?」
「一応、それぞれの場所に応じたノルマを達成したら、すぐに退避するようにお願いしたからね。それにソフィアさんが火をつける順番とかを、決めてくれてたからスムーズにイケていると思いたい。中央部はフェイやウッドさんに任せてるし、一部の村人も自信がある人しか向かっていないから大丈夫だとは思う」
そう言いながらユーキは立ち上がった。
「作戦の第二段階だ。あいつがここに来るぞ」
その言葉にユーキたちの後ろで控えていた者たちの間で緊張が走った。
「勝機は一瞬。寸分の狂いも許されない。なんとかして食い止めよう」
本当にできるのか。ユーキ自身も確証がないまま作戦を考えたことを、今になって後悔したくなる。
相手は魔王の右腕的存在だと言われた魔物。例えそれが知られていなくとも、あの巨体を見れば誰でも人が敵うものではないと理解できてしまう。もしいるとするならば、それこそ勇者か人の皮を被った化け物だろう。
「ユーキを、信じる」
アイリスが見上げながら宣言する。その言葉にユーキは拳を握りしめた。
「みなさん、もう一度だけ確認させてください。俺の作戦は成功するかどうかもわからない穴だらけなものです。村を救うために命を危険に晒すことになります。それでも、力を貸してくれますか?」
後ろにいた内の一人が進み出た。
「愚問ですね。困った人を救えずして何が聖女ですか。例え国が違えども、私は協力を惜しみません」
聖女アストルムは凛とした声で言い放つ。傍に控えている他の三人も一様に頷いた。
ソフィアに至っては表情こそ変わらないが、体の中に魔力が勢いよく流れ、剣を振るう時を待っていた。
「ダメですよ。斬ったら毒がまき散らされるじゃないですか」
「む、それはそうですが……」
「あなたの役目はバジリスクを抑えることですからね。間違えないでください」
やはり、その様子に気が付いたのは常に一緒にいるアルト。本来の剣を斬るためではなく、防御として使うことに抵抗のあるソフィアであるが、ラミアの締め付けさえ解けぬ膂力でどう対抗するつもりなのか。
正直なところ、ユーキも含め周りも止めに入ろうとしたのだが、それを逆にアルトに止められてしまった。アルト曰く、「彼女が本気になったら誰にも止められない。逆に言えば、止めると彼女が決めたならば、必ず止められます」ということ。
勇者と魔王以外は、というおまけつきではあるが。
そのアルトの横にオーウェンも進み出た。その顔には一片の迷いも見られなかった。
「陛下の領土を守るのは貴族の義務だからね。当然、僕も手伝うよ。むしろ、この計画の要なんだ。いないと困るだろう? 副会長」
「エリーです、会長。いくら何でも、あのバジリスクとやらに私の魔法が効くとは思えないのですが」
「僕たちの、だ。それに二人じゃない。ここにいる全員で抑え込むんだ。きっとできる」
「か、会長がそこまでいうなら、私も参加せざるを得ませんね」
「悪いね。付き合わせてしまって」
オーウェンは自慢の魔法剣を抜き放つ。
洞窟で相対した時よりも更に強烈な魔力が宿っている。人ではなく魔物に向けるのならば、遠慮はいらないといったところだろうか。ユーキは魔法剣の輝きを見て、自分にアレが振るわれなくて本当に良かったと感じた。
「僕たちも、手伝おう」
「マックスさん。先程から姿が見えませんでしたがどちらに?」
「何、ちょっと王都に早便を飛ばしたのさ。間に合うかはわからないが、最悪の事態になっても食い止めることはできるだろう」
肩で息をしながら走ってきたマックスは汗をぬぐいながら、バジリスクの方を見やる。
「あれはここで食い止めなければいけない相手だ。民に被害を及ぼす前に、ね」
「彼の言う通り、魔眼は私が何とかする。後はあなたたちに任せる」
目の周りを包帯で巻いて、目が見えない状態のレナがマックスの側へと寄り添う。
「その、本当にそれで……?」
サクラが心配そうにレナへと問いかけると、軽く頷いて答えた。
「暗闇だろうと矢を当てるのがエルフ。――――外せば里の師匠に何と言われるか」
「俺には何もできないけど、万が一の時には守り通す。安心してくれ」
マックスがレナの方へと手を置くと、彼女も口元に笑みを浮かべた。
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