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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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火を避けて水に陥るⅠ

 巨体にも拘わらず、僅かな音だけ立ててバジリスクは道を進む。本来なら大きくうねって進むはずだが、狭い家に体を擦りつけながら、脆い家を半壊させて無理矢理押し通る。いくら農業が栄えて、儲かっているといえども所詮は農民。家の造りは木造の一階建てがほとんどで、簡単に壊れるのは当然だろう。

 そのまま、村の家々の間を縫って進んでいたバジリスクは、ふと何かに気付いたかのように鎌首をもたげて、辺りを見回す。

 おもむろに地面へと顔を近づけると、舌を何度も出し入れして臭いをかぐ。よく見れば滴った赤い液体の乾いた跡が点々と続いている。昼間であれば見逃す可能性はゼロではないが、闇の中で見つけられるのは相当な嗅覚の良さがあるからだろう。

 地面に残った血痕の匂いを追いながら、村の中央へと進んで行くと、共用の井戸の前へと辿り着く。バジリスクの目の前には、うず高く積み上げられた牛などの家畜が何十体も聳え立っている。辺りを警戒しながら近づくと、腹を空かせていたのか、迷うことなく山の頂点にいた牛へと牙を突き立て、そのまま飲み込んでいく。

 本来ならば時間をかけて飲み込むはずの()()()()()がスルンと一飲みされると、また一つ、また一つと咥えては飲み込み、咥えては飲み込み、と信じられない速度で山が消えていく。


「……よし、食いついたな」


 その様子を離れた場所から確認したユーキは、ニヤリと笑った。

 バジリスクがいくら蛇とはいっても、本物の蛇と同じ能力を持っているとは限らない。それでも、普通の蛇と仮定して動いた場合、今の状況は非常に上手くいっている方だ。


「あの量の血でも、しっかりあそこまで追ってきて捕食するなんて怖すぎるな。おまけに熱を感知できるのは厄介極まりない」


 蛇にはピット器官と呼ばれる熱を感知する能力がある。したがって、夜の闇の中でも問題なく動ける上に、死んでいるかどうかもすぐに見分けられる。ただの死体では餌と認識せずに素通りされてしまうだけだ。

 その点、餌と認識されて死んだ家畜に食いついたのは幸運だった。井戸の近くまで運んだ家畜をその場で殺し、焼いておけば家畜をその場にとどめておくための人員を配置しないで済む。

 尤も、この家畜たちを使ったおびき寄せには、もっと大きな意味が込められている。まさかバジリスクも自分が食べているものが、()()()()()()()()とは考えないだろう。

 次々と家畜を飲み込んでいく姿を目の当たりにしながら、ユーキの後ろにいる仲間は、自分の体が震えそうになるのを必死に抑えていた。


「ユーキの言った通りの能力はあるみたいだけど、本当に恐ろしいのはバジリスクの魔眼だろう?」


 マリーが不安そうに呟く。それはユーキもわかっているが、それを封じる手段がほとんどない現状、魔眼の視界に入らないことを前提に動くしかない。

 隠れた場所でバジリスクの様子を見ていると、静かにキャロラインが近寄ってきた。


「やはり、あれはバジリスクで間違いないようです。ここからでは見えませんが、奴の通った場所や壊した建物が異様な色に変色していました。聖女様と村長からは大きな攻撃は控えるように、と」

「うーん。斬撃、射撃がダメとなると残る方法は限られてくるよなぁ」

「そのための、()()なんだろ?」


 報告に頭を抱えるユーキに、マリーがニヤリと笑った。


「そう簡単にいかないのが、世の中ってものだよ」

「おっさんみたいなこと言うなよな。あたしはユーキに期待してるぜ」


 ――――中身は三十近くのおっさんだよ。


 心の中でため息をつきながら、ユーキは前を見据える。

 いくら体格がデカいとはいえ、バジリスクの大きな牛を一飲みする姿は圧巻だ。丸ごと一飲みするせいか、一つ一つの食べるスピードは遅いように思えるが、それでも総量を考えれば随分なスピードである。


「さて、もうすぐ出番だ。頼んだぞ二人とも」


 ユーキの呟きが聞こえていたかのように、すぐに村の一角に変化が現れた。

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