灰吹きから蛇が出るⅤ
ミシリッ、と樹木が悲鳴を上げる。
次の瞬間には、いくつもの木々が半ばから折れ、上半分が空中に飛んでしまった。
「ひゅーっ! こいつぁヤバいな。ここに呼ばれたのが俺たちでよかった。おい! 他の奴は全員逃がしたんだろうな!?」
「既に完了! 後は俺たちだけ。この後どーするんすか!」
「ばーか。さっき戻ってきた奴が言ったろうが、村を囮にバケモノ退治だとよ!」
木々の間をまるで猿のように飛び回りながら会話をする木こり姿の二人がいた。装備はグローブの中に嵌めた指輪と手に持った杖。そして僅かばかりの煙玉だ。
「そろそろ日没だ! 村へと向かったら、そのまま散開! 死ぬ気で逃げろ!!」
「あとは頼むぜ。こちとら魔力を使い切るまで走り回ったんだからよ!」
体中汗まみれになりながら走る遠距離護衛部隊の二人。その目指す先は篝火が灯り始めた村だった。
その後ろから木々をなぎ倒しながら現れたのは、全身緑色の大蛇。その頭部には白い水滴上の模様が取り囲むように煌めいていた。
時折、口を開きながら液体を噴射すると当たった側から木々が枯れていく。
そのまま体のバネを活かして一直線に突き進むも、二人はそれを見切って左右へと飛び移る。体を伸ばしきったバジリスクは一秒ほど動きが止まった後、再び二人を追い始める。
「くっそ。あと一分もありゃ辿り着けるのによ!」
そう言って次の木へと飛び移った男は着地の瞬間、後ろから嫌な気配を感じた。
慌てて振り返った瞬間、体が動かなくなる。
「おい、お前何を!?」
数メートル先を行く相方が叫ぶが、その声は届かず、ついに蛇の巨体がゆっくりと姿を現した。それを認識した瞬間、もう一人の男も体が動かなくなる。
「馬鹿なっ!? これは、魔眼か? くっそ、体が、動、かねぇ」
自分が息をしているのかどうかも怪しくなるような程に体の自由が利かなくなる。獲物が動かなくなったからか、悠々と滑り寄ってい来るバジリスク。
流石の二人も開かれた口に死を覚悟した瞬間。その顔の横っ面で大きな火球が膨れ上がった。
「今だ! 逃げろ!」
「ばっか。お前、ここで何してやがる!」
「馬鹿はお前だ。口開く暇あるんだったらさっさと走れ!」
いつの間にか体の自由が戻っていた二人は、ここに戻って来るとは思っていなかった仲間の言葉で我に返ると、急いで走り始める。
逃げる音が遠のいていく中、鱗が僅かに焦げたバジリスクがのそりと立ち上がった。その眼は闇夜の中にある篝火のように爛々と輝いている。僅かに舌を覗かせた後、ゆったりとした速度で二人が向かった方角に進み始めた。
一方、その頃。村では森の中の異変に気付いた者が出始めていた。
「おい、今の音聞こえたか」
「あぁ、木が倒される音と何かが爆発する音だ。何かがこっちに向かって来てやがる」
「慌てんなよ? 一歩しくじれば村どころか命もおじゃんだ。あのガキどもの言うことを全部信じるわけじゃねえが、あぁまで言われたらやるしかねえ」
「お前さんが一番落ち着け。血気盛んなのは良いが、そういう奴から死んでいく。今は静かに待つ。それが狩りの基本だ」
小声で話しながら、酒の入った器を一杯ずつ回し飲みする。魔物退治に行くときの自警団の験担ぎみたいなものだ。曰く、「緊張がほぐれる」とのことだが、ただ単に判断力が低下しているともとれる。
そんな二人は飲み終わると、息を潜めて森の様子を見守った。森から自分たちのいるところまでは田畑を挟んで百メート以上はある。
だが、彼らの役目は逃げることでも誘導でも、ましてや知らせることでもない。その役目は気付かれない、ということだ。
「そんじゃあ、作戦の成功を祈って、俺たちは一先ず隠れさせてもらおうか。俺より先におっちぬんじゃねえぞ。ガキども」
作戦が行われる方角に軽く手を振り、二人の男は建物の中に姿を消す。その直後、森から形容することのできない声と共に、バジリスクの巨体が姿を現した。
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