灰吹きから蛇が出るⅣ
――――一時間後、村の外れに多くの村人が集まっていた。
「あんた。無理すんじゃないよ」
「俺のことは気にするな。それより、子供たちを頼んだぞ!」
村のあちこちで王都へと旅立つ住民の群れ。ほとんどの者が王都に辿り着くまでの食料と僅かな金銭を持って旅立っていく。
村長の指示は迅速だった。必要な物を指示して、自警団の若い者を護衛につけて送り出す。四十前後の屈強な筋肉を誇る男たちは死ぬことを覚悟して村に残ることを決めた。
「もうすぐ日が暮れる。篝火をあちこちに立てて視界を確保しなければ圧倒的に不利だな」
「蛇は目より熱で獲物を探知するからな」
「それ、さっきも聞きましたけど本当ですか?」
フランが不安そうに聞いてくるが、ユーキは黙って頷いた。その視線が前へと向くと、たくさんの家畜たちが自警団の男たちによって運ばれていくところだった。
「あの子たちも、作戦のためには必要なんですよね」
「……そうだ」
フランは悲しげな眼で牛や馬たちを見送る。
知ってか知らずか家畜たちの上げる泣き声は命乞いのようにも聞こえた。
「あくまで俺たちがやるのは時間稼ぎ。間違っても倒そうだなんて思わない方がいい」
バジリスクの猛毒は土地をも殺す。下手な手を打てば国家すら傾かせかねない事態に発展することも考えられる。特に食料関係は危険だ。食料不足が他国に知られた場合、戦争が勃発する可能性が出て来る。
先日、スパイが魔法学園の生徒を監禁したことも考えると、否定しきれない部分が大きい。
加えて、聖女が危険視するバジリスクへの対処はA級冒険者パーティが相当数準備して、かつ、軍も動かしての大規模作戦になっていてもおかしくないレベルだ。
膂力が強いだけならばいくらでもやりようはあるが、そこに特殊な能力が一つ二つ重なるだけでこうも大変なものになるのかと頭が痛くなる。
「サクラとマリー。それに加えてウンディーネにオーウェンとエリー。あの人数で足りるかな?」
「作戦の要だからね。何とかして成功させたいところだけど」
最初に作戦を提案した時は村長も含め、大反対だった。
その中で唯一、味方をしてくれたのはサクラとマックスだ。
意外にもマックスは法律にも詳しく、壊れた物は国へと申請すれば援助してもらえるし、最悪、自分たちの稼いだ金からも出すとまで言ってくれた。
村長もそこまで言うならば、と渋々頷いた。
「俺もこのやり方が最善だとは思わないし、あくまで他の蛇だったら通用する体質を使おうとしているだけだからね。過信は禁物だよ」
ため息をつきながらユーキは、すぐ近くにいるアルトへと視線を送る。
その表情は見た目からは想像できないほど険しく、いつ来るともしれないバジリスクを待ち構えていた。
「ソフィア。そろそろ下がりましょう。私たちは蛇だけじゃなく暗殺者とも戦わねばならないのですから」
「そうですね。では、私たちは例の場所に移動させていただきます」
「お気をつけて。この状態では護衛も最小限になってしまうので」
「御心配には及ばず。……私がおりますから」
最後にソフィアが見せた顔は完全に聖女ではなく、戦闘をする者の目だった。
思わず身震いする中、準備が終わったサクラたちが、アルトたちと入れ替わるように駆け寄って来た。
「ユーキさん! こっちは準備できたよ」
「サクラ。魔力の方は大丈夫か?」
「な、なんとか」
サクラの来た方からは若干、だるそうな顔をした面々が集まっていた。ウンディーネだけは最後の仕上げがあるから戻ってくることはできない。
無詠唱で水魔法を連発できる力があるウンディーネは、この戦闘にいれば八面六臂の大活躍だろう。それでも、この作戦において彼女をこの場に置いておくことはできなかった。
「ユーキ君。僕たちができることはやった。後はあいつが来て、作戦にハマるように上手く誘導することだけだと思うけど、他にやっておくことはあるかい?」
「いや、今は休んで魔力の回復を優先させてください」
「わかった」
あと少しで陽が暮れる。
戻っていった遠距離護衛部隊の人は、時間稼ぎだけなら半日は持たせられる、と言っていた。逆にそれ以上は無理だということだろう。
むしろ、魔王の右腕的存在と戦って半日も時間を稼ぐことができることを称えるべきかもしれない。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




