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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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灰吹きから蛇が出るⅢ

「ちょっと待ってください。今、森に入るのは危険です」

「あれ? 君たちがお孫さんを助け出した時に魔物は倒したんじゃ?」


 リシアがユーキに尋ねるので、彼女たちが部屋に来るまでに話していたことを説明する。

 するとウッドが腕を組んで唸る。


「バジリスク、ねぇ。毒蛇で石化の魔眼持ち。体の大きさは?」

「文献では家の高さまで体を起こして進むそうです。最低でも十メートル。二十メートル以上はあると考えた方がいいでしょう。ラミアと交雑をしている個体がいるとなれば、安易に森に踏み入れるのは危険です」

「そうなると、体の太さも相当なもんだ。俺の槍でも奥まで刺さるか怪しいな」


 その傍らでレナはずっとユーキのベッドに腰かけて眼を閉じている。

 反対側にいたサクラはユーキにこっそりと耳打ちしてきた。


「ユーキさん。この人たちは?」

「あぁ、王都に来る前に助けてくれた人たちなんだ。剣を持っているのがマックスさん。槍使いがウッドさん。あっちの杖を持っているのがリシアさんで、今ここに座っているのが弓使いのレナさんだ」

「弓使いの……レナ?」


 ユーキは一人ずつ紹介していくとレナのところでサクラが反応した。


「あの……もしかしてA級冒険者最年少記録の弓使いレナ?」

「んあ? 呼んだ?」


 寝ていたのか、目を擦りながらサクラへと振り返る。


「あの、もしかしてA級冒険者のレナさんですか?」

「あー、一応そうなる予定」

「嬢ちゃん。レナはな、今度王都のギルドに着くとA級冒険者になるんだ。最年少記録十七歳に更新さ」

「え、レナさんって十七歳っ!?」


 ユーキがレナの年齢に触れた瞬間、すぐ真横へと矢が突き刺さった。


「女性の年齢には触れるべからず。変態」

「あ、その評価変更されてなかったんですね」

「当然」


 そう言いながら、レナはウッドの腹へと一発拳を叩き込んだ。


「お前も人の年をばらすな」

「おまっ。俺の方が一応年上なんだから、多少は遠慮ってものをだなぁ!?」


 パンパンッと手を二回叩く音が聞こえたかと思うと、リシアが苦笑いしながらウッドとレナを引きはがす。その表情は笑顔のように見えるが、明らかに怒っているオーラがにじみ出ていた。


「はいはい。そこまでにしておかないと、みんな困っちゃいますから。後、命がかかってるかもしれないから、話はよく聞いてくださいね」

「「ごめんなさい」」


 そんな中でマックスはオーウェンの方へと向き直る。


「ファンメル軍は動いているのか?」

「いえ、護衛部隊が遠距離から見張っているのみで、大規模なものは……」

「護衛用の狙撃部隊のみでは、万が一、この村が襲われたらアウトだな。仮に森で倒したとしても体液がばらまかれたら、数年間は人も獣も住める状態じゃなくなるんだろ?」


 全員が頭を捻る中、言い辛そうにマリーが手を挙げる。


「あのさ。あまりこういう手段は使いたくないんだけど、あたしの母さんなら一撃で焼き尽くせそうな気がする」

「そうか! ローレンス伯爵夫人と言えば、あの天才と謳われた宮廷魔術師。ドラゴンすら慄く火炎を操り、山すら形を変えるという――――」

「まぁ、そうなんだけどさ。あんまり親を頼りにするのは良くないし、バジリスクが本当にいるかどうかもわからない。でも本当だったら、それくらいの戦力じゃないと無理だぜ、多分」


 マリーが苦笑しながら言う。それを聞いていたフェイは首を振って、彼女の意見に否定を表す。


「伯爵がいない以上、ローレンスの地を離れるのは難しいのでは? それに領地からここまでどれだけ離れていると思ってるんです?」

「そこだよなぁ。あの人のことだから、情報が伝わればすぐにでも来れるけど、伝える手段がなぁ」


 悩みながらどっちつかずな反応をしていると、階下からドタドタと大きな音が聞こえ始める。何事かと全員が押し黙り、ドアの向こう側へと注目する。一拍遅れて、ドアが急に開き、一人の男が押し入ってきた。


「何奴!?」


 キャロラインとレベッカが捉えようとするが、それよりも早く男は跪いて早口で捲し立てた。


「森にて異様なバケモノと遭遇っ! 仲間が時間を稼いでいますが、このままでは日が暮れる頃には村へと到達します!」

「落ち着けっ! 一体何があったんだ」


 オーウェンが男の肩を揺すって問いただす。

 よほど慌てて来たのか、男の呼吸は荒く、報告を言い切るので精いっぱいだったようだ。


「仲間の一人が、ラミアの遺体を、処理しようとしていたところ、背後から急に襲われまして。全員無事でしたが、あの巨体には到底敵わず。匂いまで消して野生動物にも悟られないようにしていたのに……」

「どんな魔物だ!」

「蛇です。巨大な、蛇っ!」


 オーウェンはアルトへと振り向くと険しい顔で口を開いた。


「すぐにこの村の住民を避難させましょう。開拓はいつでもできますが、人の命だけは戻りません」

「同感です。しかし、このままバジリスクを放っておくわけにもいきません」


 ――――だが、どうやって。


 そんな言葉が全員の胸中を支配しようとしていた時に、マックスがマリーを見て告げた。


「君のお母さんに連絡がつけば何とか出来るんだな?」

「あ、あぁ。一応、母さん。かなり魔法が使えるからな。昔、ドラゴンを火の球で焼き殺して、食べたことあるって聞いたし」

「わかった。幸い素早く連絡をとれる方法が一つある。それで俺の方から連絡してみるが、あまり期待はしないでくれ」


 そう言ってマックスは、すぐに部屋を出て行った。


「俺たちも、村長の所に行って話をしてきた方がいいな。あんたらはここで作戦を考えていてくれ。聖女様に迂闊にうろつかれたら、護衛が戦う前にへばっちまうからな」


 ウッドが立つとレナとリシアも立ち上がった。そのまま出て行く背中を無言で見送るアルト。

 音を立てて扉が閉まるとアルトはぼそりと呟いた。


「さっきは自分たちだけ戦うのはおかしいって言ってたのに……」


 マックスの矛盾する言動に、彼女は理解できないとばかりに眉をひそめた。

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