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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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灰吹きから蛇が出るⅡ

 数秒間の沈黙を最初に破ったのはウッドだった。


「あ? マックスが、勇者!? ありえねー! 天地がひっくり返って、星がこの世から消えても、ありえねー!」

「ウッド。ちょっと黙ってて」

「ごふっ」


 レナに脇腹を割と本気で突かれて、その場へと崩れ落ちる。

 苦笑いを浮かべるマックスはソフィアや他のメンバーの顔を見回す内に、表情が変わっていった。そのまま、少女の前に跪くと頭を垂れる。


「失礼ながら、御身の正体を明かしていただきたい。さぞ高貴な方なのでしょう。また、先程までのご無礼をお許しいただきたい」

「聖教国サケルラクリマの聖女、アストルム」

「聖女、ということは勇者と言うのは御伽噺で語られる()()……?」

「その通りです。星神の導きによって、あなたを見つけることができました。共に魔王を打倒すために力をお貸しください」


 聖女の出現で流石のウッドとリシアは目を丸くして二人を見つめていた。

 逆にレナは知っていたとでも言わんばかりに腕を組んで見守っている。


「魔王か。強いんでしょうね」

「はい、恐らくは」

「わかりました。その話、謹んで()()()申し上げます」


 部屋の時間が止まった。

 多くの人の頭の中に、「何言ってんの?」という疑問が浮かんだあと、血の気が一気に引いた。それもそうだろう。アルトの背後に無表情になったソフィアが剣に手をかけていたからだ。

 流石の殺気にユーキたちは焦り始めるが、マックスは一切動じる様子がない。ゆっくりと立ち上がり、アルトからわずかに離れる。


「それで、どうなさるおつもりですか?」


 軽く息を吐いたソフィアが剣を抜き放つと、一瞬で距離を詰め、首を両断せんとばかりに横薙ぎにする。

 音すらも聞こえぬ銀の一閃。誰もが悲惨な末路を想像したが、終ぞその瞬間は訪れなかった。

 髪の毛一本入るかどうかという絶妙な位置で剣は止められていた。


「何故、反撃しなかった?」

「俺が勇者なら殺せないでしょう? 大方、俺の実力を測ろうとしてたのかと思いましてね。それにここにいるメンバーで聖女の仲間はあなたを含めて三人。実力は凄いでしょうが、全員を口止めすることはできない。必然、この場で俺を殺すことは不可能です。まぁ、俺を脅す程度の効果はあるでしょうけど、あまり良い手とは言えませんね」


 しばらく二人が睨みあっていると、アルトがソフィアへと声をかける。


「ソフィア、その辺でやめておきましょう。勇者様のご機嫌を損ねることになりそうだから」

「はっ。勇者殿、無礼を許していただきたい」


 剣を納めて謝罪をすると部屋の空気がふっと緩んだ。

 ただし、聖女であるアルトの表情はなかなか晴れない。それに気付いたマックスは申し訳なさそうに言う。


「いやー。一応、このパーティを率いている以上、俺の判断で魔王討伐に行くのは難しいし、何より死ぬのは怖いからな」

「死ぬのは誰でも怖いものです。それにあなたが行かなければ世界が滅びるんですよ」


 アルトの言う通りだ。魔王が復活するのならばそれを止めるか、討伐しないと世界中の人間が滅びる。結局、マックスも死ぬことになるだろう。


「何故、おとぎ話のように勇者だけで立ち向かわなければいけないんだ?」

「それは、どういう……」

「ずっと不思議に思っていたんだ。勇者にはアレを倒せ、これを倒せ。同じ人間なのに、なぜこの人たちは勇者に任せきりなんだろうって」


 マックスは拳を握りしめた。


「魔王を倒すのに勇者の力がいるのはわかる。でも、だからと言って、他の魔物の相手をすべて勇者に任せきりにするのはどうかと思う。そうだね……聖教国はどれだけの戦力を出してくれるんだい?」

「それは黒騎士隊を……」

()()()()のために、ですよね。世界中が危機に陥るというのなら、世界中が手を取り合って、魔王を討伐に動かない限り、俺は協力するつもりはない。俺や仲間だけに死ぬ気で行け、なんて言う命令を出すような人の言うことは聞く気なんてないから、そのつもりでいてほしい」


 マックスは一呼吸置いて、ユーキの方へ向かって苦笑いした。


「ごめんな。変な空気にしちゃって」

「そんなことないです。誰だって自分の命は大切ですから。ところで、マックスさんはこの後どうするんですか?」

「この村で護衛任務を終わらせたら、王都のギルドに戻るつもりだよ」


 ユーキの近くまで歩いてきたマックスは、未だにフリーズしているウッドたちの肩を叩きながら目を覚まさせる。


「この近くの森で探索をしたい研究者がいてね。明日から数日間の護衛をする予定なんだ」


 その言葉にアルトたちの顔が固まった。

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