灰吹きから蛇が出るⅠ
前回現れた魔王は歴代の魔王の中でも、とりわけ強大だった。
真っ先に聖教国へと攻め入り、聖女を殺し、勇者が出る前にすべてを屠ろうとしたのである。天も地も埋め尽くさんとする魔物の軍勢。各国の支援など間に合うはずもなく、聖教国は滅びるはずだった。
「ですが、ファンメル王国から来ていた青年が偶然にも勇者であることがわかり、聖教国に保管していた神器を与えて、魔物と魔王を打倒した、というのが簡単な流れです」
「はー。流石、当事国なだけあって、しっかり記録が残ってるんだな」
感心しながら聞いているが、聖教国に行ったこともないので、内容のほとんどは頭の中で想像するしかない。
「はい。その中で一番最後まで残った魔物がバジリスクだと書かれていました」
「その時の倒し方は?」
「炎で焼き尽くしたそうです。おかげで体液による土壌汚染は少なかったという」
体液が残らないほどの圧倒的な火力なのか。あるいは熱によるたんぱく質の変性なのか。バジリスクの攻略の手がかりが掴むことができた、とはいえ――――
「――――そもそも、こんなところにバジリスクなんかがいるのかな?」
サクラの疑問はもっともだった。
バジリスクに子供がいたのならば、もっと世界は酷い状況に陥っているだろう。或いはどこかに残っていた卵が長い時間を経て孵ったか。そうでないとするならば、誰かが作為的に用意したことになる。
「考え、すぎ?」
アイリスもサクラの言葉に同意する。
そこへドアをノックする音が響いた。レベッカとキャロラインが顔を見合わせた後、アルトに視線を向けるとアルトも無言で頷いた。
「おーい。村長の家にいないんでこっちに来たぞー」
「わかりました。今開けます」
「お、わりーね。って、おいおい。こんな狭い部屋に何人詰め込んでんだ」
ウッドが入ってくるなり驚いて辺りを見回す。
確かに三人部屋とはいえ、十人もいれば狭く感じるのも無理はない。
「ウッド。後がつかえてる。邪魔」
「いってぇな。蹴り入れることねえじゃねえか」
「退かないウッドが悪い。よって私は無罪」
「相変わらずいい度胸してんな。はったおすぞ!」
にぎやかな二人とは対照的に、静かに入ってきた二人はユーキに向かって手を振った。
「やあ、なかなか活躍しているそうじゃないか。ランクもあっという間に上がってるってギルドで聞いたよ」
「あの時と違って表情が男らしくなったね」
リーダーの剣使いマックスに、魔法使いのリシア。そして先程からウッドと騒いでる弓使いのレナ。どうやら王都で別れた後も健在のようで、ユーキは思わず微笑んだ。
「マックスさんたちこそ、元気そうで何よりです」
「ウッドから聞いたぞ? ガールフレンドを前に張り切って少女を助け出したら疲れて気絶したって」
「それ、八割嘘です。村長さんのお孫さんを助けたのは本当ですが」
「ラミアを倒したんでしょ? しかも、亜種クラスに大きいの」
「えぇ。ただ、俺一人じゃなくてここにいるみんな、で……」
ユーキが周りを見渡しながら話を続けようとすると、アルトがわなわなと震える指でマックスの背中に指差していた。
流石にその行動を不審に思ったのか、ソフィアも他の騎士二人も何事かと見つめていると、アルトは大声で叫んだ。
「見つけたー!!」
「うおっ!? 元気な嬢ちゃんだな。お転婆なのは良いけど、お淑やかな方が似合ってるぜ?」
「うっさい! 槍使い! そんなことより、世界の命運がかかってる大切なことなんだから黙ってて!」
ウッドの言葉に言葉遣いが乱れるアルトだったが、それすらも彼女にとってはどうでもいいことであった。なぜならば、聖女である彼女が今一番探していた人物が目の前に現れたからだ。
思いっきりマックスの腰にしがみ付くと意地でも離すかと言わんばかりに力を入れた。そして不思議そうに見つめてくるマックスへ期待と羨望の瞳で声をかける。
「あなたが勇者ですね?」
「はぁ……俺が……?」
事態を把握できていないマックスから間抜けな声が漏れた。
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