生殺しの蛇に噛まれるⅥ
ユーキの言葉にアルトが口を開いた。
「あの、ユーキさん。ユーキさんはバジリスクの存在をどこでお知りになったのですか?」
「え? いや、昔、家にあった本棚の中に入ってた本に載ってた。他にもいろいろ面白い生物が載ってて面白かったなぁ」
小さい頃に見たファンタジー世界の生物図鑑的な本を思い出しながら懐かしむ。まさか、自分が本当にそういうものが存在する世界に生きているとは、今でも信じられない。
そんな感慨に耽っていると、マリーが不思議そうな顔をする。
「なあ、フェイ。バジリスクって聞いたことあるか?」
「いえ、聞いたことないですね。むしろ、蛇で魔眼と言うとゴーゴンの方が有名ですから」
フェイだけでなく、オーウェンやアイリスも同じような反応を返していた。唯一、聖教国のメンバーだけが青ざめたまま震えている。明らかに異様な光景にユーキの膝の上にいたハンナも不安げに顔を見上げた。
「――――とりあえずラミアを倒した報酬についてお聞きしておきましょうか?」
ソフィアが話を変えて、本来の目的へと強引に戻す。
村長も場の空気に飲まれていたのか慌てながらも、革袋に入った大量の銀貨をテーブルに置いた。
「こ、これが報酬で、銀貨五百枚です」
一人あたり五万円。正直、ラミアの魔眼を踏まえても報酬は依頼内容的には適正か、やや下くらいではある。人数が多い為、一人分が少なくなってしまうのは仕方がないだろう。
ソフィアはそれを受け取ると宿屋に戻るように促した。豹変したソフィアに戸惑いながらも、ユーキたちは席を立つと、ハンナと村長夫妻に礼をしながらも邸宅を後にする。
ウッドとは村長のところで会えなかった場合は、宿屋に来るように約束をしていたので、特に問題はないが、どこか後ろ髪を引かれる思いで足を進める。
宿屋の部屋に入り、扉が閉まると同時にソフィアはユーキへと近寄り、その襟首を掴み上げた。
「何故、おまえがバジリスクの存在を知っている!?」
「ちょっと、落ち着いてください!」
「これが落ち着いていられるか! この男は我が国の重要機密を知っているのだ! それもごく一部の人間しか知らされていないトップシークレットクラスのものを!」
ソフィアが手を突き放すと、ユーキはベッドへと倒れ込んだ。
肩で息をしながら興奮する聖女とは思えぬ様相に、流石のオーウェンも間に割り込めないでいた。その後ろからアルトが静かに告げる。
「ソフィア。もういいでしょう。これ以上は時間の無駄です。事態は一刻を争うかもしれないのですよ」
「しかし、それは……!?」
「私がいいと言っているのです。枢機卿たちも理解してくださるでしょう」
ソフィアは数秒間アルトを見つめると、諦めたようにアルトの側へと近寄り、その横へと並んだ。周りにいる全員の顔を見回した後、静かに告げた。
「みなさん。今まで隠していましたが、私が聖女アストルム。彼女が黒騎士隊隊長のソフィアです」
「「「うん。知ってた」」」
「――――え!?」
本人はここ一番という大切な場面のように宣言したが、周りからすれば何をいまさらと言う感じのようだ。口をパクパクさせながら顔を真っ赤にしたアルトは、横に立つソフィアを見上げる。
「――――すいません。私の演技が未熟なばかりに」
「いやいや。演技以前の問題で、あんな剣を振り回せる聖女なんて、誰も信じませんって。そもそも聖女の役割は御伽噺でも『勇者探し』・『回復』・『浄化』の三点セットじゃないですか」
フランの言葉がアルトへと突き刺さる。思わず女性が出してはいけない声が口の隙間から漏れ出ていた。そのまま、前のめりに倒れそうになるのをソフィアの腕を掴むことでようやく堪える。
「それで、聖女様がわざわざ正体を晒してまで言わなきゃいけないことって? そこまでユーキが詰め寄られなきゃいけないほどのヤバい情報って何なんだい?」
マリーが冷めた目でアルトを見つめる。その瞳を見返しながらアルトは無表情に告げた。
「バジリスクは、前回降臨した魔王の配下です。それも右腕的な存在として」
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