生殺しの蛇に噛まれるⅣ
「なーに。野暮用で隣の村にいたら、村長の早馬で依頼が来てな。急いで来てみたら、既に解決済みだったってわけよ」
「ってことは、他の皆さんも!?」
「あぁ、今は手分けしてお前を探してるところだ。しかし、驚いたぜ。あんなに頼りなかったお前さんが、こんなに一丁前な格好してるんだもんなぁ」
笑いながら思いきり肩を叩く。元々の体の痛みがなくても響くほどの威力で手が振り下ろされるのだが、不思議とそれは酷いものではなかった。
「あの、ユーキさん。この方は?」
「お、なんだい。お前さんのガールフレンドか?」
「ち、違います。まだ、そんなんじゃありません」
「まだ?」
好きな子に悪戯する小学生のように笑みを浮かべたウッドが畳みかけると、サクラは顔を赤くしてユーキの後ろに隠れてしまった。
「ははは、嫌われちまったな」
「ウッドさん。そういう悪戯するから、痛い目を見るんじゃないですか。あの日の夜だってそうだったでしょう?」
ゴブリンを村から撃退した次の日の晩の宴会で、出てきた肉を食べた際にゴブリンの肉だと言ったせいで、村人に酒をしこたま呑まされたことを指摘する。
それに対してウッドは気にせずに、ユーキの頭を抑えつけるようにわしゃわしゃと片手でひっかき回した。
「はっ。俺に説教を垂れるなんざ十年はえぇ。それより、自分の心配をしろってんだ。まともに歩けないなりに自分の足元を見ておくこった」
頭から手を離した瞬間に顔を上げると、いつの間にかデコピンを額にお見舞いされていた。呻くユーキを放っておいて、近くにいたソフィアへと向き直る。
「悪いな。騒いじまってよ。俺は仲間を呼んできて、こいつに会わせたいんだが、どこかにお出かけかい?」
「はい。これより村長の家に行こうかと」
「そうかい。じゃあ、俺もしばらくしたら行くから待っててくれないか。それか、もし村長の家にいないようなら、ここに来ることになる」
「……わかりました。あなたたちとユーキさんが会うまでは、この村にいますから安心してください」
しばし考え込んだ後、ソフィアはアルトの方に目配せをしながら頷いた。どうせ移動できたとしても隣村まで、今の時間を考えれば急ぐことはない。
安請け合いをしたつもりではなかったが、このやりとりがこの村の命運を左右することになるとはアルトもソフィアも夢にも思っていなかった。
ウッドと別れた後、まっすぐに村長宅へと向かうと、王都ほどではないが立派な木造の邸宅が見えてきた。大農園と言うこともあってか、資金にはだいぶ余裕があると聞いていたが、その点からすると逆に質素なようにも見える。見た目よりも過ごしやすさをとっているのだろうか。そんな疑問をもちながら邸宅に入ると、人のよさそうな老婆に奥の部屋へと通された。
来客用の部屋ということもあり、調度品もほんの少しだけ高そうに見える。椅子に座りながら周りを見回していると、老夫婦が茶菓子を持って現れた。
一瞬、フェイとオーウェンが剣に手をかけようとする。何故ならば、現れた男が異様な巨漢だったからだ。身長は二メートル近く。皺の入った顔とは対照的にハリのある筋肉。小型の巨人族が現れたといわれれば頷いてしまう程だ。
直接話を聞いたキャロライン達を除く面々が呆気にとられる中、ゆっくりと手に持った茶菓子を並べると低い声と共に頭を下げた。
「この度は儂の孫娘を救っていただき、ありがとうございます」
「えーと、あなたがここの村長さんでよろしいですか?」
「いかにも」
話を聞いただけだったソフィアも、若干、顔を引き攣らせながら訪ねる。村長はそれに応え、ゆっくりと頷く。
次の瞬間、その頭を老婆が思いっきり(ジャンプして)お盆で叩いた。
「まったく、あんたに任せておけば大丈夫だと思ったのに、冒険者さんたちに迷惑をかけるだなんて! その筋肉は飾りかいっ!?」
「その……面目ない」
見てくれだけで、村長は奥さんには頭が上がらないようであった。
だが、その筋肉自体は見てくれだけではない。自警団と共に前線で森の魔物を狩り続けた勲章である。少なくとも、この場にいる戦闘経験がある者は、そのことを見抜いていた。
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