生殺しの蛇に噛まれるⅢ
「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」
「何故ですか? 世界を救う大義ある旅。終われば名誉も何もかもが手に入るんですよ?」
「俺には、まずやらなければいけないことがあるので」
ユーキは見えない布団の中で手を握りしめた。
元の世界に帰る。それがユーキの最優先事項だ。もしかしたら、魔王が原因でこちらの世界に呼び出された勇者と言う設定も考えはしたが、それならば聖女が真っ先にユーキを把握しているはずである。
故に、ユーキはソフィアの誘いにノーを突きつけた。
「はー、聖女様のお誘いを断るとか、あいつ命知らずとは思ったけど、あそこまでぶっ飛んでるとは思わなかった。あれじゃ、父さんのこと笑えねーぞ」
「(やめろ、俺を非常識人扱いするのは!?)」
そう心の中で思いながらマリーに非難の視線を向けるが、同じような視線でオーウェンとエリーがユーキを見つめていた。その顔には、「ありえない」の一言がはっきりと見て取れた。
「(まぁ、つながりが欲しい貴族からすれば当然の反応だけれど、そこまであからさまに睨むことないじゃないか)」
ユーキは視線をソフィアへと戻す。その顔は落胆ではなく、別に無理ならば他を当たるとでも言いたげな顔だった。
「そうですか。では気が変わったら教えてください。私たちはいつでも歓迎いたしますから」
「お誘いいただきありがとうございます。俺にも協力できることはしていくので」
ソフィアが頷くと、会話が終了したと判断したようでmオーウェンが話を切り出した。
「先ほど、村長からお礼がしたいということがありましたが、その件はどうされますか?」
「ユーキさんがここで寝てる以上、あまり分散して動くのは良くないですね。宿の人経由で村長に気にしないよう言伝を頼んだ方がいいでしょう」
その言葉に頷きかけるが、アイリスやフェイは首を振らなかった。
「ここで報酬を断ると、冒険者の人に迷惑」
「そうだね。無償で人助けをすることは尊いことかもしれないけれど、同時にそれを生業とする冒険者には迷惑な話。『ギルドを通さずに依頼を請け負った場合は相場の二割増し』というのが一般的な報酬ですから、受け取っておいた方が波風が立たないです。それに無償でそんなことをするなんていう善人なんて――――」
「宗教関係者。特に聖教国の神官は謝礼を受け取ることを美徳としない」
アルトの言葉に一瞬、ソフィアの目が泳いだ。心なしか、表情も硬い気がする。
「確かに、私たちだとバレる可能性が更に上がると大変ですね。ユーキさんが動けるのならば、村長宅に向かった方がいいのではないですか?」
「そ、そうですね。ユーキさんの体調はどうですか?」
ユーキはゆっくりとベッドから抜け出して立ち上がる。頭に血液が回らず、少し立ち眩みが襲ってきた。視界が欠け、認識できなくなるが、十秒もすれば普通に動く分には問題ない。心配そうにサクラたちが見守るが、軽く首を動かしてユーキは頷いた。
「大丈夫です。戦闘でなければ何とかなりそうかと」
「無理を承知でお願いします。それでは、村長の所へと参りましょう」
ソフィアの声に頷いて、全員が扉へと体を向けるとその向こう。いや、正確には階下から大きな声が響いてきた。
怒号ではないが、明らかに普通の会話ではない声量に全員面食らう。
「我々が先に行きましょう」
エリーの呼びかけでオーウェンやマリーが扉を開けると真っ先に降りて行った。続けてソフィアとユーキたちも後を追うようにして部屋を出る。
サクラに付き添われながら階段を踏み外さないようにして降りていくと、聞き覚えのある声が響いてきた。
「だーかーらー、ここにユーキって奴が来てねえかって聞いてんだよ。教えてくれたっていいじゃねえか!」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。一体何があったんですか?」
「お、ここの宿泊客か。黒髪のガキを見なかったか? 俺の知り合いなんだが、大物とやりあったらしくてな。心配で探してるんだ」
オーウェンが困った顔でユーキの方へと振り向くと、その視線を追った大声の主とユーキの目が合った。声を上げるどころか、聖女の護衛をしている二人の騎士ですら反応できない速度で、ユーキへと詰め寄って――――
「よお、久しぶりだな。元気にしてたか?」
青髪の短髪で、目にも止まらない素早い身のこなし方に、ユーキは見覚えがあった。
「ウッドさん!? どうしてここに?」
この世界で初めて訪れた村を守るために共に戦った冒険者パーティの一人、ウッドであった。
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