生殺しの蛇に噛まれるⅡ
ふと目を開くと、そこは今朝目覚めた部屋だった。
「――――良かった。目が覚めたんだ」
少し間延びしたサクラの呼びかけが聞こえる。ユーキはそちらを向こうとして、またもや痛みに苛まれることになった。
「あー、やっぱり痛い? 動かないで、じっとしてて。ソフィアさんたち呼んでくるから、それまでは、とりあえず痛いの痛いの飛んでけー!」
サクラが二の腕を擦りながら、また子供をあやすように呪文を唱える。
ただ手を当てて、言葉を話しただけで、何の光も魔力も感じないのに、ユーキの体の中にある痛みがスッと引いていった。
「え? ちょっと?」
「マリー。ソフィアさん呼んできてくれる?」
「あいよー!」
ドア近くでフランとアイリスの三人で何やら固まっていたが、すぐにマリーは外に出て行く。
それを見届けてサクラはユーキに再び話し掛けた。
「さっきはごめんなさい。私たちにもできることがあったはずなのに任せきりにしちゃって」
「いいよ。俺には俺にしかできないことがあってやっただけだし、それにみんな無事だったからさ」
「シェリーちゃん。あ、村長さんのお孫さんなんだけどね。あの後、すごい感謝してたんだよ。まぁ、村長さんにあったら、思い出して泣いちゃったんだけど」
痛みが消えたことと数日ぶりにサクラと普通の会話ができたことが嬉しくて、楽しそうに笑うサクラにつられて笑ってしまう。
「あれ? どうしたの?」
「いや、痛みが酷くて、サクラと普通の会話をすることが、ここ数日なかったな、なんて思ってさ」
「そういえば、そうだったかも……。えっ、ということはユーキさんが上の空だった時って、ずっと体が痛かったの!?」
両手をベッドに着くと、ユーキの方へと身を乗り出す。眉根が少し寄っているところを見るに、どうやらご立腹のようだ。
「痛いなら痛いで、ちゃんと言わなきゃ」
「うっ。おっしゃる通りでございます」
確かに痛みを我慢するだけで、フェイにもほとんど言わなかったことを思い出したユーキは目を逸らしながら頷いた。
「次からは、苦しい時にはちゃんということ。いい?」
「……わかった」
大きくため息をつくと、サクラの後ろから声が響いた。どうやらマリーがソフィアたちを連れて戻ってきたようだった。
「意識が戻ったと聞きましたが、大丈夫ですか?」
ソフィアとアルトが扉を通ってユーキの正面に並ぶ。
「えぇ、おかげさまで。大分、調子もよくなっています」
「そうですか。それは良かったです」
「いえ、俺のせいで次の村へ行くのが遅れてしまって申し訳ありません」
顔だけを二人に向けて謝罪するとソフィアが首を横に振った。
「いえ、私の油断が招いたことです。むしろ、皆さんを危険に巻き込んでしまい申し訳ありません」
深々と頭を下げるソフィアに慌てたのは、扉の近くで待機していたオーウェンだった。
「お顔をお上げください。聖女様が頭を下げたなどと知れ渡ったら……」
「ここでは私はただの冒険者。女剣士のソフィアです。それに謝るべき時には頭を下げることも必要です。人間、誰しも間違えることなどあるのですからね。頭の下げ時を見失って、家族や町、国が亡びることもあるのです。だから、私を止めないでいただきたい」
「そうですか。私こそ失礼しました。どうかお許しを」
オーウェンが下がるとソフィアは微笑んで、再びユーキへと向き直った。
「さて、一応、あなたにお尋ねしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「はい。俺に答えられることなら」
「あなた、何者ですか?」
その言葉にユーキは目をぱちくりさせる。何か深い意味があるのか、とサクラやマリーにも目配せするが、周りの魔法学園組は誰もが頭の上に疑問符を浮かべていた。
一通り周りの反応を見渡した上で、ユーキは困った表情を返した。
「ウンディーネと交友があり、魔眼を所持し、挙句の果てに私たちの国の秘奥に匹敵する結界を扱う。オーウェンさんから聞いたところでは、ミスリルの城壁に穴を開けるほどのガンドも放つそうですね」
「うーん。結界に関しては、あなたたちの結界を見たことがないし、聞いたこともないから応えられませんが、概ね合っています」
ユーキが頷く。それと同時にソフィアは鋭い眼光でユーキを睨みつける。
「(おやおやおや、何だか旗色が悪くなってきたけど、ナニコレ? もしかして俺、尋問されてる?)」
嫌な想像が頭の中を埋め尽くすが、すぐにそれは否定されることになる。
「もし可能ならば、ぜひ、私と共に故郷へ来てほしい」
「「えっ!?」」
ユーキと同時に何故かアルトも声を上げる。
アルトがソフィアの服の袖を引っ張り、何事かを耳元で囁くと、今度は顔を真っ赤にして話し出す。
「あなたの戦闘力は私の護衛部隊にも負けず劣らずだ。それならば、一緒に勇者を探し出した後、魔王を倒す旅に同行してほしい」
「あ、そういうことか」
ユーキはホッと胸を撫で下ろした。
「はー、びっくりしました。てっきり、新手のプロポーズかと思っちゃいました」
「ち、違います。決して今のはそのような意味では……!」
フランの言葉に慌ててソフィアが否定をする。その横でアルトはおかしそうに腹を抱えて笑い。マリーも顔を真っ赤にしながら、息を止めて笑うのを堪えていた。肩の震え具合を見ると相当我慢しているのだろう。
アイリスがその堤を破ろうと横腹に指を刺そうとしているが、フェイに手首を掴まれてつまらなそうにしている。
ユーキもひとしきり笑った後、それに対する答えを口にした。
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