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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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三者択一Ⅸ

「私を殺せば、二人が死ぬ。お前たちが帰れば、何もしない」

「魔物の言うことが信じられるかよ!」

「では、仕方ないな」


 そう告げると少女から悲鳴が上がる。一方のソフィアは歯を食いしばって耐えることができていた。


「まずいぞ。同時に二人を救う。具体的には少女の方を救い出すのは難しいだろうね。あんなに太い尾では斬っても殴っても、燃やしても、締めあげる方が格段に速い」


 オーウェンが焦りながらも剣を地面に突き立てて、二人を見守る。

 よくみれば、水が地面を伝ってラミアたちの方へと伸びているのが見えた。恐らく、不意打ちで何かをしようとしているのだが、その表情から察するに成功率は低いようだ。


「頭を切り落とそうなんて、考えない方がいいですよ。多分、筋肉とかが一気に締め上がって、女の子が死んじゃいますから」


 小さく詠唱をしていたアイリスにキャロラインが忠告する。するとアイリスは詠唱を諦めて、助けを求めるようにマリーを見た。


「あたしの魔法じゃ無理だ。素早く近づくならフェイくらいしか無理だと思う」


 そう呟いていると、近くまでアルトが近寄ってきた。


「皆さん。ソフィアを自由にできれば、あの子を救う方法はあります」

「どういうことですか?」


 エリーが魔法でオーウェンのために水を作りながら、アルトへと尋ねる。


「最後の手段として、ソフィアは聖教国の誇る武器を持っています。本来はあのような魔物相手に使うものではないので、躊躇われましたが、そうも言ってられません」

「ソフィアさんが自由になれば、反撃を貰う前に助け出せる、ということですか?」


 サクラの言葉にアルトは静かに頷いた。

 そして、そのまま視線はユーキの顔。いや、僅かにその下へと向けられた。


()()()()のお力もお借りしたいのですが、よろしいですか?」

『――――なるほど、最初からお見通しだったってわけですね』


 ウンディーネが返事をする。

 城で僅かに聞こえた、いるはずのない十三人目という言葉。それが普通の人間には見ることのできないウンディーネのことを指していた。


「ソフィアを救い出すまでの数秒。救い出してから少女を助けるのに数秒。この二つの内、最初は私がやります。その後は、お任せしてもよろしいですか?」

『あなたの言う通りに動くのは癪ですが構いません。ちょうど、水もたっぷりありますからね』


 そして、最後にアルトはユーキを見た。


「ユーキさん。救出はあなたにお願いしてもいいですか?」

「俺!?」

「はい、恐らく。ラミアの腕を斬り落とすには、あなた以外の剣では無理でしょう。私たちの剣は基本的に切るというより、叩き潰す方に近いのです。あなたの剣ならば最適でしょう」


 ユーキの心臓が跳ね上がる。

 あんな化け物に援護があるとはいえ、飛び込むには相当の勇気がいる。もし、失敗すれば二人とも死ぬ。一人救出できても自分か少女が死ぬ可能性がある。命の重さが一気に二つ、自分の上に圧し掛かる。

 振り返ればラミアは面白そうにこちらを見つめている。確実にこちらが歯向かうことはできないと高をくくっているのかもしれないが、それも無理はない。

 ソフィアを死なない一歩手前で締められているのか。彼女は苦しそうに両手で相手の手首を掴んでいるのが目に入った。


「大丈夫です。私の魔法で少女にしたようにラミアの精神を弛緩させます。数秒程度ではありますが、周りで起こったことに対して反応が鈍くなりますから」

「その後は水を使って、私が足止めをすればいいですね。上手くいくかはわかりませんが」


 お互いに頷くと全員の視線はユーキに注がれた。


「ふぇ、フェイが俺の刀を使ってやるのは、どうかな?」

「できなくはないだろうけど、それを一番長く使っていたのは君自身だ。最後の最後で、武器は持ち主に応える。そういう意味では君の方がいいだろう。身体強化も君なら上手くやれる。それは僕が保証しよう」


 最後の頼みの綱だったフェイに首を振られユーキの顔は引きつった。

 ごちゃ混ぜの感情があふれ出そうで震える肩に手が置かれる。


「少年。一番に突っ込むのは君ですが、私たちも一緒に行きます。万が一、上手くいかなくてもフォローは任せてください」


 レベッカが肩を叩くと隣にいたキャロラインも頷いた。


「わ、私たちも魔法を準備して待ってるから」

「いざとなったら、凍らせて、時間が稼ぐ」

「あたしとフランは、救出後の方がいいな。下手すると巻き込みかねない」


 フランはマリーの言葉に涙目で首を大きく振った。まだ咄嗟に出た魔法に驚いてるのか、しきりに杖を擦っている。

 それを尻目にアルトはユーキに手順を伝えた。


「おそらく魔法は簡単には当たりませんが、それはこちらで何とかします。ユーキさんは、最初に飛んでいった白い球が破裂した瞬間、全力で走ってください」

「その、失敗したら、ごめん」

「やる前から失敗することは考えないの。しゃきっとする!」


 サクラが珍しく強気にユーキの背中を叩いて鼓舞する。一瞬呆けた顔でサクラを見るが、すぐにユーキは前を向いた。


「おしゃべりは、終わったか?」

「あぁ、答えなら今すぐ聞かせてやりたいが、その前にコイツを渡して置くぜ」


 ユーキが言うと後ろから白い球がふわふわと飛んでいく。そのままラミアに届くと思われたが、一メートルほど手前で尾の先によって払われる。

 その光景を見ていた勇輝は、刀を納めたまま水泳のスタートのように体を落とした。呼吸を止め、タイミングを計る。頭の片隅で電子音が鳴るような錯覚がした。


 ――――パアァァンッ!! 


 白い球が弾ける。同時にユーキは全力で大地を蹴り出した。

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