三者択一Ⅶ
ピリピリと眼の奥や足の筋肉が痛みに引き攣っていた。
なかなか治まりを見せない痛みに腹が立ってくる。雷霆とかいうものが一体何の役に立つのかと思っていると、サクラが話し掛けてきた。
「ねぇ、ユーキさん。何か変な感じがしませんか?」
「え?」
ユーキは改めて周りを見渡した。魔眼を通しても通さなくても、風景におかしなところは一切なかった。
匂いなども嗅いでみたが、特に異臭がするわけでもなかった。
「ほら、ウィンドラビットって、縄張り意識が強いから……もっと追いかけてくるのかと思ったけど、そうじゃないみたいだし」
「ここが縄張りじゃないってだけの話なんじゃ?」
「そうだとしても、いきなり全部のスピアラビットが蜘蛛の子を散らすように戻っていくのは、おかしくないかな?」
二人で頭を捻っていると唐突に泣き声が森の奥から響き渡った。
「この声は……!?」
「間違いないぜ。攫われたガキンチョだ!」
マリーが走り出すとオーウェンとアイリスもそれに続く。慌ててレベッカも三人を追いかけ始める。
その後ろでソフィアは抱えていたアルトと言葉を交わすと一気に加速。ユーキたちも遅れてなるものかと全力で追いかける。
十数秒もしない内に泣き声の持ち主の所へと辿り着く。ツタのようなもので木に縛り付けられた少女がマリーの姿を認めると、さらに大きな声で泣いて助けを求めていた。
「よし、今すぐに――――」
「待て!」
オーウェンが剣をマリーの前に出して、その場に留まらせる。抗議の声を上げようとしてオーウェンの鋭い視線に口を閉じる。
「明らかに罠だね。周囲を警戒した方がいい。魔物以外まで関わっていたら一網打尽だ」
その言葉にマリーも冷静になる。そのまま、離れたところから大きな声で女の子に呼びかける。
「おーい! 助けに来たぞ! 一体誰に攫われたんだ!?」
「お゛じーぢゃああああああああん!!」
「あ、駄目だ。言葉が届いてないや」
マリーは遠い目をしてアイリスへと目線を送る。そんなアイリスも目を細めて首を振る。
どうしたものかとオーウェンが悩んでいると白い光が、すぐ目の前を飛んでいくのが見えた。そのまま蛍のようにふわふわと少女の前まで行くとシャボン玉のように弾けた。
過呼吸になりかけていた少女の声が急に収まると、数秒後には呆然とした顔でキョロキョロと見回し始める。
「何だ今の魔法……?」
「ちょっとした治癒魔法の応用ですよ」
ソフィアが後ろから現れてマリーに答える。その指先には同じような白い光が灯っていた。ユーキたちも追いついてきたが、状況が把握できないでいた。
そんな中でソフィアの横からアルトが少女に向かって呼びかける。
「ねー! おじーちゃんに言われて迎えに来たんだけどー、どうしてそんなところにいるのー?」
「ばっ!?そんなこと言ったら、また泣き喚くぜ!?」
「いいからいいからー」
フランクなしゃべり方になったアルトは少女の方を指差す。
すると不思議なことに、少女は目をぱちくりさせてたどたどしく話し始めた。
「歩いてたらねー。横から女の人が出てきてねー。そのままここに連れてきてくれたの―」
「うんうん。それでー?」
「すごい綺麗な人で……でもお腹から下が蛇だったの」
まるで催眠術にでもかかったかのように、だが、はっきりとこちらを見て受け答えをする少女は違和感でしかなかった。
「そのことを言ったら、凄い怖い顔して、ここに縛られてー。どっかにいっちゃったのー」
「……ラミアで間違いなさそうですね」
口調が元に戻ったアルトにソフィアも頷いた。
その言葉を聞いて、またフランがびくびくとユーキの後ろに隠れて周りを見渡す。幸運にもラミアの姿を辺りには見えない。
「このまま近づいてもいいですか? 私が行ってきます」
「キャロラインさん。あなたにもお願いしていいですか? あなたなら大抵の魔物には力負けしないでしょうし」
「任せてください」
剣を引き抜いたオーウェンとキャロラインはゆっくりと少女へ近づいていく。その背中を少し膨れっ面で見ていたエリーだが、すぐに表情を引き締めて周りの警戒に移った。
「まだ彼女はラミアの保護範囲の筈。それならば、必ず見える場所から見張っているはずです。みなさんも気を付けて」
エリーの言葉にフェイとユーキ、レベッカ、そしてソフィアがアルトやサクラたち、近接武器を持たない組の壁となるように四方を固め、ゆっくりとオーウェンたちの後を集団で付いていく。
「よし、よく頑張ったね。今から一緒におじーちゃんの家に帰るから、少しじっとしててね?」
「うん」
頷いた少女に微笑んでオーウェンはツタへと剣を振り下ろす。
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