三者択一Ⅵ
森の小道を十人以上もの人数で走ると、どこかで走力の差が出て詰まったり離れたりしてしまう。
しかし、お互いが離れそうになると前を走る者が魔法で援護をして、足止めをする。それはダンジョン内でトレントに追われた時と同じ作戦だった。
「まさか、また同じようなことをやるとは思わなかったぜ」
「お互い声をかけなくても、息バッチリだからね」
マリーとサクラが身を翻して、オーウェンの横を通り過ぎていく。
「『地に横たわる雫を以て、越え行く者に反逆せよ。汝、濁流の檻となりて、その意を示せ』」
剣を一振りするとその剣先の延長線上に大量の水がばらまかれる。道だけではなく、その脇の茂みも勢いよく水を浴びて、細い枝は折れ、草は根と土ごと掘り返されてしまった。だが、それはこの魔法の本質ではない。
その線を走って超えていくウサギは、一匹残らず水の球の中へと閉じ込められていく。
「会長。あまり連発はしない方がいいのでは? その魔法、まだ使い慣れていないのですよね?」
「副会長か。僕の心配は良いから、彼女たちのフォローを。この程度の魔物の魔法なら鎧に傷一つ付かない」
「エリーです。会長、生身の部分はそうも言ってられないのではないですか? 一応、あの魔物はBランク冒険者対応依頼だったはずです」
「やれやれ、そういうキッチリしているところ、おかげでよく助けられている、よ!」
「あっ……!」
オーウェンはエリーを掴んで胸元に引き寄せると、そのまま横へ回転するように飛び退る。間一髪、エリーの頭部があった所を風切り音が駆け抜けていった。
木の幹がへこむ程の勢いで蹴って、オーウェンは空中で態勢を整えて一気に前へと躍り出る。
エリーを地面へ下ろすと背中を押した。
「躱すくらいなんてことない。今は君が前にいてくれ」
「――――わかりました」
すぐに踵を返して走り出したエリーの顔は真っ赤に染まっていた。それを見ていたキャロラインは、ニヤリと笑いながら、エリーの後ろへ着く。
聖女側の護衛はソフィア一人に任せれば問題ない。それこそ、魔王だとか正規「軍」と正面衝突しない限り、負けはあり得ないという確信が彼女たちの中にある。
むしろ、今危険なのは生徒たちの方。初めから、護衛騎士の二人は生徒たちを守るために呼ばれている。だからこそ――――
「はっ!!」
キャロラインが後ろも見ずに剣をいきなり跳ね上げると、烈風が辺りに散らばった。
――――聖女の近くにいずに生徒の後ろと前で様子を見ているのだ。
そんな彼女の目の前で人差し指を向ける少年がいた。
「……あれは聖女様が言っていた子ですか」
そう思った矢先に、彼女が反応できない速度で不可視の弾丸が五発駆け抜けていった。不可視ではあるが、その弾道は周囲のマナと反応し、僅かな揺らぎと残光を舞わせていた。
思わず目を見開いてユーキを見つめた後、後ろを振り返る。道の脇の藪がスピアラビットと共に砕け散っていた。
余裕をかましていて油断していた、とまではいかなくても、心のどこかに慢心があったのは否定しない。だが、それでも今の光景はキャロラインにとって心臓が跳ね上がるほどの恐怖を感じさせたのは確かだ。
もし、今の攻撃が自分に向けられていたらと思うと恐ろしくて何も言えない。
怯えの色が浮かぶキャロラインの心情を知ってか知らずか。ユーキは踵を返して走り始めていた。
ガンドを撃った後のユーキは表情こそ変えていないが、心の中では叫びまくっていた。
「(痛ったー!? 治癒魔法で治ってたんじゃなかったのかよ。滅茶苦茶いてぇじゃん。っていうか、もともと右腕はそこまで痛くなかったはずなのに!?)」
痛みがぶり返し、必死の形相で足を動かして痛みを誤魔化す。身体強化を施してから時間が経つごとに、どんどん痛みが全身に戻り始めている。このまま後一分走っていたら、間違いなく足が止まるだろう。
呼吸が荒くなり、膝が笑い始めたところで、後ろから声がかかった。
「おーい。何とか逃げきれたみたいですよ」
キャロラインが大きく、剣を振って前へと叫ぶ。
その声に反応して、走っていた者が続々と土埃を上げながら急ブレーキをかけて、立ち止まった。
振り返ると、茂みの揺れが波のように引いていくところが目に映る。息を整えながら皆が集まると、どこからも不自然な音は聞こえてこない。
ユーキは魔眼を開いて確認するが、見えてくる景色におかしなところはなかった。
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