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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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三者択一Ⅴ

 魔物が出てくるのかと思い、冷や冷やしていたユーキはほっと胸を撫で下ろす。

 その瞬間、思いっきり襟首を掴まれて後ろに引っ張られた。


「ごほっ!?」


 息を詰まらせながら引っ張った相手を見ようとして、目の前を見えない何かが通り過ぎていく。

 遅れて、通り過ぎた方から弾けるような音が響いた。慌てて、そちらを見ると木の幹が三分の一程、抉れている。


「何だあれ!?」

「ぼーっとするな! あいつは風の魔力を固めて撃ちだしてくる。君と同類だよっ!」


 さらにフェイがユーキを突き飛ばして反対方向へと飛び退く。二人が一秒前までいた場所が、地面ごと抉れて吹き飛んでいった。

 ウサギの姿こそしているが、その額には六角形の形をした緑色の無機物が浮き出ている。これがショーケースの中だったならばエメラルドと勘違いしそうになるだろう。


「危ねぇ……」


 首筋に鳥肌が立つ。あんなものを人間が喰らったら間違いなく銃弾で射抜かれるより悲惨な目に遭うのは確実。ユーキは右手をウサギに向けてガンドを放とうとするが、それよりも先に高速で飛来する物体があった。


「――――ギッ!?」


 奇妙な声を上げるとウサギはその場に崩れ落ちた。それもそうだろう。自分の身の丈も有ろうかという大きな刃物に首を貫通させられたら、大抵の生き物は絶命するに決まっている。


「よし、上手く当たりました」

「よくやりました、レベッカ。相変わらずいいコントロールですね」


 前から聞こえてきた声で判断すると、どうやらレベッカが大型ナイフを投げて突き刺したようだ。ソフィアの褒め方からすると、日常的にそういう戦い方をしているようだ。


「やっぱり私、剣よりこういう方が得意みたいですから。今度は弓とかにも挑戦してみたいですね」


 少したれ目気味でほんわかした雰囲気の女性だったが、黒騎士に任命される以上、その戦闘能力に偽りはないようだ。ウサギに近づいて、ナイフを引き抜く一瞬、その顔から表情が抜け落ちた。それを見たユーキは一瞬恐ろしさで心臓が止まりそうになった。

 心の中でまた一人、逆らってはいけない人リストに名前が追加された瞬間である。


「しかし、マズイことになりましたね」


 ソフィアが剣を抜いたまま、辺りを見回す。木と草が邪魔をしていて視界がかなり制限されていえる中、彼女は目を細めて茂みを観察する。


「マズイって何がですか?」


 エリーが問いかけるとソフィアはアルトを重さを感じさせないとばかりに、素早く持ち上げる。

 ユーキたちが来た道の方から風がそよぐように、草木が波打ち、細かく音を鳴らす。


「ウィンドラビットは基本群れで活動する魔物ですから、このままここに留まると風の槍に串刺しにされます。仲間も集まり始めているみたいですね」

「ウ、ウィンドラビットは仲間を殺されると最大一キロ程度追ってきます。こんな視界の悪い所で襲われたら、ひとたまりも有りません!」


 そういうことだ、と言わんばかりに頷くとソフィアは森の奥に向けて走り出した。


「ユーキさん。走れそう?」

「あぁ、何とかね」


 サクラに声を掛けられて、ユーキは身体強化を施して立ち上がる。不思議なことに数時間前と違い、ユーキの体から痛みはほとんど消えていた。魔力を流す瞬間にひりつく痛みがあったが、今は問題なく動けそうだ。


 ――――ヒュパッ!


 後ろから放たれた風の槍、いや風の弾丸がユーキたちの頭上を舞っていた葉を貫通し、粉微塵に吹き飛ばす。それを合図に後ろから嫌な音が複数響いてきた。


「伏せろっ! 音が通り過ぎたら、全力で走れ!」


 近くにいたキャロラインは、大声で指示を出す。その指示に従って飛び伏せ、頭上を通り過ぎていった瞬間、全員が一気に走り出した。

 時折、各自が振り返り、牽制に魔法を放つと茂みの中からウサギが飛び出てきて、また別の茂みへと消えていく。

 特にオーウェンは新しい魔法を使っているのか、ウサギが不自然にできた水たまりに触れると、そこから体全体を水が包み込んで無力化していった。


「その魔法、面白そう」

「僕の新作なんだけど、あまり真似しないでくれるかな? ショックで立ち直れそうにないから」

「今すぐは、無理」

「ははっ……できる算段はあるんだね?」


 オーウェンは目をキラキラ輝かせるアイリスの返答に苦笑するしかなかった。

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