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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第1巻 極彩色の世界

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あなたの世界は何色ですか?Ⅱ

 ユーキが次に目を覚ますと、近くに机が増えていて、ルーカスが羊皮紙に何やら書き込んでいるようだった。書き終わったのか、羊皮紙を丸めて紐で結び、同様に作られた羊皮紙の山に置く。


 ふと、顔を上げたルーカスと目が合った。



「おぉ、目を覚ましたかね。具合はどうじゃ?」


「気分はいいです。でも、右腕が動かないみたいで」



 左手で体を起こして答える。おそらく、右腕で支えようとすれば、体重で関節が逆の方向に曲がってしまう予感があった。



「魔力を一気に使いすぎたせいで、肉体にも影響が出ておる。ドクター・リリアンの治療で肉体的損傷自体は一応完治はしているようじゃ。あとは神経の問題じゃな。――それにしては、治るのが早い気がするが、何か治療効果を増幅させる魔道具でも使っていたのかね?」



 ユーキの脳裏に再び薬草よりも光を放つ石の存在が過ぎった。ルーカスが石を仕舞っている胸ポケット辺りを見つめている気がするので、どう説明しようかと悩んでいると、ルーカスが自身の疑問を流して話を進め始める。



「いや、それは今は置いておこう。おそらくは、当分の間は感覚面でのズレが続くじゃろう。それでも、早ければ明日には腕も動くようになるはずじゃがな」


「そうですか。一生このままは、さすがに大変なので安心しました」



 これで一先ずは安心といったところだ。ギルドでの依頼も早く復帰しなければ、生活できない身なのだから。



「さて、何があったのかは儂も少しは把握しておる。まずは礼を言わせてくれ。この学園を、そして街を守ってくれてありがとう。君のおかげで多くの命が救われた」


「いえ、俺は目の前の命を救おうとしただけです。そこまでのことではありません」


「冒険者ギルドの精鋭と王都にいる騎士団が力を尽くして、ギリギリのところで間に合わなかったのじゃ。それを水際で食い止めるばかりか、解決したのは君の功績と言わず何という。謙遜は美徳かもしれぬが、過ぎればそれは醜悪にしか映らぬ。事実はしっかり受け止めるようにしておきなさい。これは、人生の先輩である儂からの忠告じゃよ」



 そう返されて、ユーキは口を閉じた。髭を撫でながら、ルーカスは話を続ける。



「今回の事件の解決にあたって、冒険者ギルドから金貨十枚とCランクの引き上げの報酬があるじゃろう。加えて、儂からも魔法学園内の施設を無償で利用できる権利――つまりは、学費なしで好きな時に授業に潜り込める――と、魔術師ギルドとして金貨十枚の報酬を渡したい。これは受け取ってもらわぬと、我々の立場がなくなるので拒まんでくれ」



 ユーキが拒否しようとしたのを、ルーカスは先に制する。日本円にして百万円がいきなり転がり込んでくるのだ。驚くなという方が無理だろう。さらにルーカスは言葉を続ける。



「国王であるファンメル三世からは、()()、金貨三十枚と騎士の称号を贈ろうという話が来ている」



 ここでユーキは話がとんでもなく大きくなっていたことに気が付く。寝起きの頭を回転させて、何とか言葉を絞り出した。



「それも拒否は当然――」


「――できる人間がいるなら、見てみたいものじゃ」



 国王直々の褒章なんてものを断れば、下手をすると不敬罪に問われかねないのではないか。


 ユーキの背中を冷や汗が伝っていく。



「その、できれば騎士とかはお断りできませんか? そういうものを貰うということは、その国への忠誠を誓うということだと思うんです。この国に来て、まだ期間の浅い自分が忠誠を、と言われても正直厳しいものがあります」



 ――ノブレス・オブリージュ。権力や財力、地位を持つ者には、それに見合った社会への貢献が必要である、という考えがある。


 すなわち今回の場合、騎士という称号・地位を得ることによって、国家への半強制的な帰属を求められるのではないのか。ルーカスから伝えられた内容の中でユーキが一番恐れているのはそこであった。ユーキはあくまで、この世界にとっての異物でしかない。 


 相手がどんな反応をするか。恐る恐るユーキが伺っているとルーカスは微笑んでいた。



「なるほど、君は実に正直だ。だが、あまり正直になりすぎるのも問題じゃな。安心しなさい。少なくとも、この国では爵位があるから国にどうのこうのという話はない。あくまでこの国の者は、自らの意思で国へと仕える。堅苦しいのを抜いて言うならば、今回の称号は国を助けた感謝状だとでも思えばいい」



 どこまでが本当かわからないが、ユーキは頷くことにした。リスクもあるが、当面の生活には困らないという点は大きかった。最悪の場合は国を出ればいい、とユーキは考える。



「さて、そろそろ君の師匠――いや、ガールフレンドかな? 彼女たちを待たせているから、儂は失礼しよう」



 杖の一振りで羊皮紙を浮かべ、そのまま羊皮紙を浮かべて扉を潜っていった。


 それと入れ替わる形で、サクラたちが中に入ってくる。



「ユーキさん。もう大丈夫?」


「あぁ、腕も早ければ明日には動くようになるらしい」



 サクラが布団に両手をついて、顔を突き出してくる。近すぎて、ユーキは思わず後ろに逃げてしまった。


 そんな様子をサクラの後ろでマリーは笑みを浮かべて見守っている。



「昨夜と違って、元気なもんだな。こっちは死ぬんじゃないかとヒヤヒヤしてたのに」


「悪い。無茶をした」



 マリーの冗談めいた批難の声に正直に答える。後でユーキは聞かされたのだが、聞いている自分でも信じられないほどの深刻さ。死んでいてもおかしくない状態だったということを理解し、本当に三人には申し訳なく思った。


 そんなユーキの謝罪を、サクラと同じように身を乗り出したアイリスは、首を横に振って否定する。



「私たちを助けた。だから、私たちも助けた。等価交換」


「そうか、ありがとう」


「こちらこそ」



 アイリスは、いつものように抑揚なく話をするが、どこか嬉しそうだった。


 そんな横でサクラは微笑んだ。



「そうだ。お腹すいたでしょ? もう昨日の晩御飯から何も食べてないはずだし!」


「あぁ、そうだね。言われた瞬間、お腹が空いてきた」



 タイミングよく、ユーキの腹の虫が返事をする。三人の視線がユーキの腹へと向けられた。誰からともなく笑い出す。



「よし、じゃあ、いろいろ用意してきたから、さっそく食べるとするか」



 笑いながらマリーは右手に持っていたバスケットをルーカスが使っていた机に置いた。


 ふたを開けると微かにおいしそうな匂いが漂ってくる。中身はサンドイッチが入っているらしい。



「はい、どうぞ」


「あぁ、ありがとう」



 片手が使えない状態でも、簡単に食べられるのでユーキとしてはありがたい。サクラの後ろではマリーとアイリスが自分たちの分の皿と椅子を用意していた。並べ終わったところにアイリスが手を合わせて、周りを見る。早く食べたくて仕方がないようだ。


 今まで気付いていなかったが、食事前の挨拶は日本と同じような形式をマリーやアイリスもするらしい。改めて考えると、違和感があるはずなのに、彼女らの仕草は日本人の動きと比べて、違和感を感じさせなかった。



「いただきます」



 四人の声がそろって部屋に響く。ユーキは大きく一口食べると目を大きく開いた。



「これ美味いな。メインストリートの店でも食べたことあるけど、それよりも美味しいぞ!」



 ユーキが食べたのはベーコンとレタス、トマトが挟まれた現代で言うBLTサンドだった。シャキシャキのレタスに酸味があるトマト、それをアクセントにして、口内に広がるベーコンの肉汁。空腹は最大の調味料というが、それを差し引いても、相当おいしかった。トマトが苦手なユーキだったが、あまりのおいしさで一口目を飲み込んでいないのに、二口目へと勝手に手と口が動いていた。


 二口、三口と頬張り、早くも二つ目のサンドイッチに手を伸ばすユーキだったが、周囲を見るとマリーが悪戯をする子供のような笑みをしていることに気付く。その視線は時折、サクラの方へと向けられているような気がしなくもない。



「なんだ、ユーキ。そんなに気に入ったのか?」


「あぁ、この味なら毎日でも食べたいくらいだね。それだけの美味しさだよ。このタマゴサンドも、良い感じの潰し具合だ。俺の好み、ピンポイントってくらいにな」



 その言葉にマリーはさらに笑みを大きくする。正直言って、不気味を通り越して怖いくらいだ。



「なるほど。つまりユーキは、こう言いたいわけだ――」


「――俺の嫁になって、毎日、サンドイッチを作ってくれ、と」


「おい、あたしのセリフ言うなよ。アイリス!」



 ユーキは首を傾げる。会話の流れが理解できない。いや、置いていかれているのではなく、大事な情報が抜け落ちている感覚。


 ふと、傍にいるサクラを見ると耳まで赤く染めて、サンドイッチを両手で持ったまま小刻みに震えていた。ユーキと目が合った瞬間、後ろを向いてサンドイッチを頬張る。



「そのサンドイッチ、サクラの手作り」



 アイリスが頭の上にはてなを浮かべるユーキに、この会話の最後のピースを与える。


 そこで冷静になって、今までの会話を連想ゲームのように繋げて思い出す。


 そこらの店よりうまい。それはサクラの作ったサンドイッチ。そして、そのサンドイッチを毎日でも食べたいという自身の発言。そして、決め手はアイリスの「俺の嫁になれ」という説明。



(つまりはあれか。俺は無意識のうちに、『毎朝、俺のためにみそ汁を作ってくれ』とかいう、一昔どころか元号をいくつか遡りかねないプロポーズ的セリフをぶちかましていたのかっ!?)



 皿の上にサンドイッチを落とし、思わず左手で顔を押さえてしまう。正直、恥ずかしい。だが、ここでは否定をするのも肯定するのも危険。故にとるべき行動は一つ。



「そうか、知らなかったよ。サクラって料理が上手なんだな」


「え、うん。昔からお母さんや友達と一緒に料理するのが得意だったから」



 話の方向を微妙にずらしたユーキの言葉に、サクラはきょとんとした後、返事をする。赤くなっていた顔は、まだ元に戻っていないが、少しずつ引いきているようであった。


 その後は、女性陣の誰がどんな料理が得意で、普段は何を作っているといった会話になっていく。サクラは和食料理全般、マリーは肉料理、アイリスはお菓子作りが得意らしい。


 実は今回のベーコンは、マリー秘蔵――という名の、家からくすねてきた父親秘蔵――の超高級品だったとか。自由奔放すぎるマリーに手を焼かされている父親の姿を想像して、思わず苦笑いしてしまうユーキだが、少しだけ嫌な予感がした。



(マリーって貴族だったはずだけど、この世界の高級な肉って、ドラゴンとかじゃないよな?)



 肉に関する内容には触れない方が良い。


 そう判断したユーキは、純粋に味だけを楽しむことにした。

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 今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。

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