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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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三者択一Ⅰ

 体中を雁字搦めにされて、暗殺者が他の冒険者に王都まで身柄を運ばれることになったのは、朝の七時頃だった。

 護衛の女騎士を二人を扉の前に残して、一部屋に集まったユーキたちはオーウェンの言葉に耳を傾ける。


「このまま進むと同じような事件が起こりかねません。ここは一度王都へと戻り、正式な兵士などで周りを固めて、各村を回る方がよろしいかと」

「それでは時間がかかります。護衛を最小限にしたのも、身分を明かさずに出発したのも、時間を短縮するためなのです。オーウェン殿。あなたの言いたいことはわかります。しかし、いつ魔王が復活するともわからない以上、無駄に時間をかけるのは危険なのです。それが自分の命を危険にさらそうとも」

「(じゃあ、俺たちの命はどうでもいいのか)」


 ユーキは思わず口から洩れそうになるが、それよりも体の中を駆け巡り続ける痛みの方が上回った。言葉よりも先に痛みをこらえる声が喉元までせり上がってきていた。


「おい。大丈夫か? さっきの襲撃で怪我はなかったよな?」

「な、なんとか。ちょっと、まだ緊張が抜けてないみたいだ」


 フェイが小声で尋ねるが、ユーキは体を動かさずに口すらも最小限の動きで意思を伝える。フェイからすれば、目線すら動かさずに話す姿は実に不気味だっただろう。それ以降は横目でちらちらと見ては来るが話し掛けてこなくなった。


「――――最悪の場合、これから毎日どこかで襲撃を受ける可能性があります。前回の護衛の時と違って、こちらの正規兵はそちらのお二方だけなんです」

「寝不足で満足に戦えない、という状況になってからでは遅いと思います」


 襲撃があったという事実が、この先の道程に茨として立ち塞がる。踏んでみても通れるかもしれない、踏んでみたら突き刺さるかもしれない。そのような恐怖に縛られながら道を進まなければならないのは、前に進むしかない時だけで十分だ。


「あたしも、そう思う。引き返した方が安全だぜ」


 マリーも首を振って、両手を上げた。やり直せるなら、それに越したことはない。ほとんどの者が引き返す意見に回っていた。だが、それでも聖女は頷かない。隅にいたアルトも流石に困惑した表情で聖女を見つめていた。

 そして聖女の目線は逆にアルト。即ち本物の聖女に一瞬だけ注がれた。アルトが頷いたのを見たのは誰もいなかった。


「私の感覚だけで、あなたたちにはわからないかもしれないですね。今日まで、たった一日進んだだけで勇者の存在が少しずつ近づいているのが分かるのです。このままいけば、この任務中に会える可能性があります」

「それならば、なおさら……」

「もし、暗殺者が我々ではなく、そちらに向かう可能性があるとするとしたら、どうしますか?」


 聖女の言葉に全員が息を飲んだ。


「勇者の居場所を特定できるのは、あなただけのはず」


 一番最初に冷静になったのはアイリスだった。その言葉に聖女は予想していたのか、すぐに説明を始めた。


「確かに聖女は勇者を見つけ出す能力を星神からいただいております。しかし、それは魔王も同じ。過去に魔王は勇者となり得る人物を殺しています」

「勇者は……複数存在する!?」


 御伽噺に記されていたのは選ばれた勇者の物語。複数の勇者候補の中から聖女が選び出した者のみが歴史に刻まれ、選ばれなかったものは闇へと葬り去られるか、陽の当たらぬ影の中にひっそりと消えていったのだ。

 勇者の隠された話を聞かされて、流石のオーウェンも口を閉ざしてしまう。


「つまり今回の任務を切り上げると、勇者候補の誰かが死んでしまう。そうおっしゃっているのですか?」


 サクラが聞き返すと聖女はゆっくりと頷いた。


「本来は信頼できる少数精鋭を選抜してから向かう予定でした。しかし、陛下の計らいで運良く活動できるようになったこの時間を無駄にはできません」


 いつものユーキであれば、この時の言葉におかしいと感じていたかもしれない。だが、どこか上の空で聞き逃していたために、その瞬間は訪れなかった。






「(今の話の半分は本当。半分は嘘。聖女にしかわからない情報なんていくらでも捏造できる。それに、今の私たちが危惧しているのはもっと別の者。そう、あなたよ)」


 アルトは部屋の隅から全員の様子を窺っていた。その様子は邪魔にならないように話を聞いているようだったが、その視線は最初からユーキ唯一人に向けられていた。

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