希望を求めてⅥ
夢を見ていたのかもわからないほど、深い眠りに落ちていたのか。ふとした瞬間にユーキは目が覚めた。
若干、窓の外が紺色に見えることからすると夜明けが近いようだ。
「やばっ。もしかして、あのまま寝ちまったのか?」
上半身だけ起こすと、晩飯を抜いたこともあって、胃の辺りがへこんでいるような感覚に襲われた。そのまま、左に向いて床へと足を下ろすと痛みが弾ける。
「まだ治らないか。いや、酷くなってないだけマシだな」
フェイやオーウェンを起こさないように一階のトイレへ向かおうと、忍び足でドアへと歩く。昨夜は軋んだ床も踏みどころが良かったのか、一切音を立てずに扉へと辿り着くことができた。ドア横に吊るされた部屋の鍵を持って、鍵を開けて外に出る。
そのまま、流れるようにドアを閉めようと振り返る途中でおかしなものを見た。薄暗い廊下に腰くらいまでの高さの黒い物体がある。
花瓶にしては大きすぎるし、地面に直接置くようなものはなかったはずだ。魔眼を開きたくとも痛みが激しくて、上手く開くことができない。
そうこうしている内に黒い塊がいきなり空中へと飛び上がった。
「うわっ!?」
思わずユーキは自分に向かって来た塊に向けて両手を突き出すが、勢いに負けて床へと押し倒される。
首が締まりかけていることで、ようやく相手が黒いローブに身を包んだ人間だということがわかった。ゴツゴツとした両手で首を締めあげられ、酸素が脳に回らなくなり始める。
ユーキも全力て敵の手を外そうと力を入れるが、思うように体が動かず、相手の手首を掴むだけになってしまっている。
「ぐっ……がっ……!?」
目の前が真っ暗になる直前、水球が不意に現れて炸裂する。僅かに水飛沫が顔にかかったかと思った瞬間、首周りにあった圧力が急になくなった。同時に思いっきり咳き込んで、空気を肺へと送り込む。
「ちぃっ!?」
「げほっ……」
飛び退いた男が腰に手をやると短く細いナイフが音もなく現れる。咳き込むユーキに向けて、一瞬で駆け寄り、そのまま首筋へとその手を付きだした。
「――――起きてこなけりゃ、死なずに済んだものを」
「誰が死んだですって?」
男が振り返るよりも先に背中に足裏が叩き込まれる方が先だった。ユーキを飛び越えて吹っ飛ぶと苦悶の声を上げながら空中で態勢を整えて着地する。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……ありがとうございます」
「鍵を開けた瞬間に扉ごと吹き飛ばそうと思っていたのですが、まさかあなたが出てくるとは」
ソフィアがユーキを庇うように進み出る。咽ながらもユーキは立ち上がると魔力を体中に回そうとして、激痛に片膝をついた。
「無理をしない方がいい。どっちにしろ、あいつはもう詰んでる」
「一体何を――――!?」
男が立ち上がってナイフを構える前に、真横にあった扉が吹き飛んで直撃する。腕があらぬ方向へと曲がっていたのが見えた。痛みを口にするよりも先に、聖女の護衛の片割れが飛び出てきて追撃をする。
「アガガッ!?」
ただでさえ折れて痛い腕に剣が叩き込まれれば、屈強な男とは言え意識を失う。そのまま手慣れた様子で縄で男を縛ると聖女の方を見て頷いた。
「な、何ですか!?」
扉が壊れたさらに一つ奥からもう一人の護衛と共にサクラが杖を構えて飛び出てきた。続いてフランとエリーも一緒に飛び出してくる。
頭が鈍痛を訴える中、気付けばアルト以外のほとんどのメンバーが廊下へと集まっていた。
「ユーキさん。大丈夫?」
護衛の後ろを通ってユーキへと駆け寄る。そのまま肩へと手を置くがユーキに返事をする余裕はなかった。辛うじて手を挙げて、サクラの言葉が聞こえていることを伝えるくらいしかできない。
「まさか、こんなに早く仕掛けてくるなんて。一体どうして……?」
「今はここで議論をしても始まりません。まずは人を呼んだ方がよさそうですね。私と彼で宿の主人を呼んできます」
オーウェンは聖女へと告げるとフェイを連れて階下へと降りて行った。見送った聖女は護衛の片割れに指示を出して、アルトがいるであろう部屋の前へと待機させる。
「これは想像以上に厳しい旅になりそうだ」
護衛が通り過ぎる瞬間、彼女の口からは思わず愚痴がこぼれ出た。護衛の代わりに小鳥が外で返事をするかのように鳴き始める。旅の二日目が始まろうとしていた。
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