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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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希望を求めてⅤ

 陽も暮れて、午後六時を過ぎた頃。三つ目の村の宿へと到着し、硬いベッドに体を預けた。


「あ゛ー、疲れた。この前の時よりも歩いたんじゃないのか?」

「そうだろうね。行軍と違って人数も少ないし、人目を気にして、ご飯を作る訓練もしなくていいからね。その分、歩く時間が増えるのは当然だろう?」


 フェイが呆れた顔で荷物をもう一つのベッドの横へと下ろす。同時に床が嫌な音を立てて軋むが、フェイは特段気にせずにベッドへと腰かけた。

 三つ目のベッドにはオーウェンが来る予定だが、階下の方でエリーと何やら話をしていて時間がかかるようだ。


「それで? この村まで一切、勇者のゆの字も見つからなかったのは予定通りだとして、君の方はどうなんだ?」

「何がだよ」

「体の痛み。まだあるのか?」


 フェイの指摘にユーキは無言で返した。ゆっくりと痛みをこらえて起き上がる。

 ここに来るまでに踏みしめる度に、呼吸をするたびに、瞬きする度に、ユーキの体のどこかが床と同じように軋む音を立てていた。或いは、錆びついて動かなくなった自転車を無理に動かそうとしているような違和感が、体全体に走る。


『残念ながら、ユーキさんの体はあまり本調子ではないようです』

「ウンディーネ……!」


 珍しく、姿を現してウンディーネはフェイの疑問に答えた。

 そして、手をユーキへと当てて魔力を流すも、すぐにそれを止めてしまう。


『私も簡単な治癒魔法をかけていましたが、それをもってしても簡単には治りません。恐らく、筋肉や骨と言った部分ではなく、もっと別の部位で異常があるのかと』

「例えば?」

『血管だったり、神経だったり。或いは架空神経そのものが傷ついていることも考えられます。流石に人体構造全てを把握しているわけではないので、はっきりと断言はできませんが、十中八九、架空神経に問題があるでしょう』


 ウンディーネはユーキの後ろへ回ると軽くユーキの背中を叩いた。


「いっつ!?」

『先日のサイクロプスの流した魔力が原因ですが、どのような理由でこうなっているかはわかりません。彼の言う()()。それが雷の力を表しているのか、別の意味を表した隠語なのか』


 もう一度、背中から魔力を流そうとするがお手上げと言わんばかりにウンディーネは顔を振ると姿を消した。


「……だそうだけど? 実際、どれくらいのものなんだい?」

「筋肉痛の凄い酷いやつ。動かすだけでピキッてなるレベルの」

「その状態でここまで歩いてきたのか」

「王様のお願い事なんて断れないのはわかってるだろ」


 改めてベッドに背を預けると意識が遠のきそうになる。瞼が落ち始め、反射的に上げるが十秒もしない内に瞼が開いているよりも閉じている時間が長くなる。


「この後、夕飯を食べたら簡単に作戦会議だ。ここの宿はあまり頑丈な造りじゃないだろうから、夜中もあまり油断はできない、って、おい。聞いてるのか?」


 フェイが声をかけてくるがユーキの耳を入って反対の方向へと抜けていく。不審に思ってフェイが近付く頃には、既にユーキは寝息を立てていた。

 人差し指を立てて、何かを言おうとするフェイだったが、指先を天井に向けたまま止まると、首を横に振って部屋のドアへと進んで行く。


「おやすみ。いい夢を」


 ドアが音を立てずに閉まり、鍵がカチャリと閉まった。一定のリズムで部屋から離れていく音が遠ざかっていく。音が響かなくなった瞬間、部屋の中で誰もいないのに突然、どこからか破裂音が響いた。


『何者!?』


 ウンディーネが慌てて出てくるが、周りを見渡してもユーキと自分以外は誰もいなかった。そのまま、辺りを見回すが警戒しているのか、それとも別の理由か。待てども待てども、一切物音は聞こえてこない。

 微かに聞こえるのは階下のどこかの部屋か食堂の音。或いは、窓の外から聞こえる生活音くらいだろう。その後、どんなに警戒してもフェイが戻るまで部屋には何も起きなかった。

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