希望を求めてⅣ
城門を出ていくと多くの商品を積んだ馬車や冒険者と入れ違う。
冒険者は比較的チェックが早く済むが、積み荷の確認が大変な商隊は時間がかかる。空いている時との差が激しいが、この時ほど空いていてほしいと思ったことはないだろう。
「うわぁ、私たち凄い見られてる……」
「そりゃそうだ。公爵家の馬車なんて出されたら、誰だって振り返るよ」
奇異の視線の先には色や形こそ質素だが、太い楕円の線を滲ませた様なマークが入った家紋があった。非常に簡素だが、それこそがライナーガンマ家の家紋である。
そんなものが堂々と城門から出て行けば、周りにいる少年少女は何者だということになるだろう。オーウェンやフェイは何ということもなしに歩いているが、ユーキやサクラからすれば慣れていないどころの話ではない。髪の色が黒く、すぐに異国の人間だということが分かってしまうからだ。
「いくら何でも、これは緊張するよな」
「慣れだよ慣れ。別に悪いことはしていないんだ。堂々と胸を張って歩けばいい」
「その慣れがないから困ってるんだよ!」
フェイに反論をする声が馬車の中にまで届く。
「皆さん。仲が良いんですね」
「そうか? 別に普通だと思うぜ」
「その普通が私たちには羨ましいです。身分がどうのと煩い人たちがいるので」
「勘違いしない方がいい。マリーは貴族令嬢から一番遠い存在」
アイリスがマリーを指差す。即座にマリーは、その手を払い落とし、アイリスのほっぺたを掴んでむにむにと弄る。
「誰がお淑やかなじゃないってー?」
「言ってないし、自分で示して、るー」
「ぐっ……」
すぐに手をパッと放して、アルトへと向き直ると、真剣な顔でマリーはアルトに問いかけた。
「なぁ、本当に魔王は復活するのか?」
その言葉に笑っていたアルトも表情が変わる。一度目を瞑った後、ゆっくりと眼を開けて頷いた。
「わかりません。私たちに星神様が告げたのは『勇者を探せ』という一言。それが一体どういう意味を持っているのかは、星神様だけが知っています」
「じゃあさ。魔王ってなんで現れるんだろうな?」
「何故、とは?」
マリーの言葉にアルトは首を傾げた。
「いや、魔物だってさ。生まれて育つ、っていう始まりと過程があるわけじゃん。だから、生まれたからって必ず魔王になるとは限らないんじゃないか?」
「その運命をもって生まれてくるから魔王と言われるのではないですか? そもそも、それが分かれば、この問題はとっくの昔に解決できているはずです。だからこそ星神様もこうやって、お告げをくださるのではないですか?」
「んー、何か腑に落ちないんだよなー」
マリーが唸る横でアイリスは、ほっぺを両手で擦りながらアルトへと問いかける。
「何で神様は私たちを助けてくれるの?」
「何でって……」
その言葉にアルトは一瞬、言葉に詰まってしまった。
星神は我らの守り神。ずっと小さい頃から聞かされてきた言葉に、疑問など抱くことなどなかった。
「ここの国の教会もそう。私たちを守ってくれるから信仰して、とはいうけれど、何故守ってくれるかを教えてはくれない」
アルトはアイリスの瞳を見つめる。
その眼は、ただ純粋に気になるから聞いてみた、と語っている。
アルトの心の中に投げかけられた疑問はいくつもの波紋を浮かばせ、さざ波を作っていく。そんな中、不意に御者台に座っていた騎士から声がかかった。
「この先、砂利などが多く揺れが予想されます。お気を付けください」
「わかりました。よろしくお願いします」
アルトが返事をすると、先ほどまではあまり気にならなかった揺れが、体が大きく揺れるほどになった。
「まぁ、神様にも色々考えがあるんだよ。あたしたち人間にはわからない、すげぇ考えがさ」
「……そうですね。私たちが考えるよりずっと偉大な方々ですから」
アルトの言葉に少し力が戻る。このまま、馬車をまっすぐ進ませると数時間もしない内に最初の村に着く。
今まで星神の神託関連しか話をすることがなかったのだから、こういうときこそ星神以外の話をしたい。そう思ってアルトはマリーへと別の話題を切り出した。心のどこかに小さい引っ掛かりを残したまま。
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