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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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希望を求めてⅢ

 今回の設定には当然、交友関係の役柄も指定された。その大きな指定を受けたのがオーウェンとマリーだ。

 オーウェンの遠縁に運よく、同じ年ごろで同じ髪の色をしている少女がいるらしく、聖女の役はその少女に当て嵌まった。

 貴族の繋がりには、多くの貴族が目を光らせているため、簡単に詐称するのは難しい。それが例え今回のような一週間程度の演技であってもだ。ユーキは屋敷でのマリーの呟きを思い出した。


「会ったことのない文通相手。貴族らしくあれと言う厳格な父親に育てられた彼女は、あたしの噂を人伝に聞いて、手紙を寄こしたところから関係が始まった。……これ、あたしがバカにされてるようにしか聞こえないんだけど!?」


 大声で叫びたい衝動にかられながらも機密を守り通すために、小声で叫ぶという矛盾技術を習得した瞬間だった。

 遠い目で瞳から光が感じられなくなったマリーの横ではアイリスが真顔で佇み。フェイは笑いそうになる顔を必死にこらえていた。


「マリーさん。笑っちゃいけませんよ」


 フランがマリーの服を引っ張って注意を促すが、当の本人はほっぺたを膨らませて今にも吹き出しそうだ。そんな彼女の前に一人の女騎士が歩み寄って頭を下げた。聖女を守る部隊なら黒い甲冑の筈だが、そのような格好をしている者は誰もいなかった。それどころか顔さえ隠さず、そこらにいる冒険者といでたちは変わらない。


「マリー殿。此度は急なお誘いに応じていただきありがとうございました」


 そのまま僅かに見える目が細められると周りの空気の温度が下がった。

 聖女とは思えない気迫にマリーも息を飲む。


「さて本日は初日ということもあり、体を慣れさせるために早めに出発して早めに休息をとろうかと思います。みなさんの準備はよろしいですか?」

「あ、あぁ、大丈夫、だぜ」

「そうですか。では我々が先頭。マリー殿とアイリス殿は馬車の中に。オーウェン殿は左翼。そちらの方々には右翼を警戒していただきましょう」


 軽く陣形の割り振りをすると聖女は、すぐに踵を返し入口前に停まっている馬車へと歩いていく。


「――――おっかねぇな。あの聖女様、絶対に只ものじゃないぜ」

「わ、私、斬られるんじゃないかと思いました……」


 フランは全身をがくがくさせながら頷いている。


「す、スゴイ迫力だったね。聖女様って、結構演技派だったりするのかな?」

「そうかもしれないな。普段はできないことも色々あるだろうから、意外と乗り気なのかも」


 傍で見ていたユーキは首筋に立っていた鳥肌が収まっていくのを感じながらサクラに同意する。その反対側でフェイはユーキに小さく呟いた。


「そんなわけないだろ。一般人があんな気配を出せるか。忘れているようだから言うけど、聖女は魔王を倒す勇者と共に旅立つ定めだ。それが足手纏いにならないよう、色々と訓練しているに決まってるだろう」


 流石にフェイの言葉にユーキもサクラも顔から血の気が引く。聖女というイメージが先行していたが、実際はもっと生々しい血みどろな戦いの最中に立つ姿を想像してしまう。





 そんな想像が行われているとは思わず聖女役のソフィアは、本物の聖女アストルムの側に着く。


「やりすぎじゃない?」

「いえ、寝ぼけ眼を起こすにはちょうどいいでしょう。子供のお使いじゃないんですから。それより、アルトもあの子たちと同じようにならないで、やるべきことはしっかりとお願いしますね」

「わかってまーす。勇者を見つけるのは、それとして。あのお兄さんの秘密も探らないとね」

「下手に突いて、ドラゴンを呼び起こすようなことはしないでくださいね」

「大丈夫、大丈夫。何か、前に会った時よりも元気がないみたいだし、破裂するよりはしぼんじゃうんじゃないかな?」


 心底楽しそうにアルトは笑った。

 煩い枢機卿たちもいない。羽を伸ばせるのは、今この時くらいしかないのだ。

 もし勇者が見つかれば、そこからは苦難の旅が待っている。自分に残された自由な時間はあまりない。だからこそ、この勇者探しの旅を面白おかしく楽しみたいと思うのは、若い彼女にとって当たり前の感情だろう。

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