希望を求めてⅡ
威嚇する猫のように目を細めたエリーは顔だけ、オーウェンの背後から出してマリーを見る。
「あ、あなた、人の体を弄って、何が楽しいんですか!?」
「いやぁ、この前負けたからどうやったら勝てるかなって」
「もう、あなたに謝ろうと考えていた私がバカでした。私に近づかないでください!」
普段(仲間以外に)しないような行動に呆気に取られていたが、僅かに笑みを浮かべるマリーの表情を見て、一つ思いつくことがあった。
『あれ、わざとですね。マリーさんらしいと言えば、マリーさんらしいですけれども』
ウンディーネもユーキの考えを後押しするかのように、念話で話し掛けてくる。
ただ謝って負い目を背負われるよりは、お互い様の状況を作り出した方がマリー的には気が楽だ。アイリスがエリーをケガさせたということもあるため、変な関係よりはお互い少しいがみ合いながらも、どこかで笑っていられる方がいい。
ふと、目線をずらしたユーキはオーウェンと目が合った。オーウェンも最初は合点がいっていなかったが、今の表情を見るとユーキと同じ考えに至ったようだ。
「仕方がない。副会長。この前のことと、今回のことで相殺というのはどうだろうか?」
「エリーです。会長もこの悪戯コンビの片割れに、少しは何か言ってやってください」
「うーん。言ったところで聞きそうにないと思うんだ」
「そんなこと言ってるから、色々なところで生徒が調子に乗るんじゃないですか!」
そう言っている二人を見ていると、ユーキの背後から足音が聞こえてきた。
振り返るとサクラやフェイ、フランを置き去りにして、アイリスが全速力で走ってくるところだった。若干、滑り気味にブレーキをかけるとオーウェンの背後に隠れるエリーの横へと立って、顔を見上げる。
「な、何ですか?」
「この前は、忙しくて言えなかった。ごめんなさい。体は大丈夫?」
「――――――――――」
絶句。
ユーキはマリーが先程以上に笑うのを見逃さなかった。流石のオーウェンも予想していなかったのか。
一本取られたといった顔だ。
マリーの行動はアイリスのためのものだった。お互い許せる状態かどうかわからなかったから、自分が悪役になって、アイリスが許されるハードルを下げに来たとは誰が予想できるだろうか。
エリーも一瞬、何が起こったのか理解していなかったが、脳の処理が追いつくと慌ててアイリスへと向き直った。
「い、いえ。特に異常はありません。こちらこそ、先日は失礼しました」
「そう、良かった。今日からよろしく」
にっこり笑ったアイリスは、そのままマリーの下へと駆けていく。呆然と見送るエリーに、オーウェンも少しばかり笑みが零れた。
「何とか、なりそうかな」
「本人たちが大丈夫なら、俺たちが口を出すことじゃないですから」
返事をするとユーキは遅れてやってきたフェイたちの方を見る。
「何だ。もう外にいたのか。一言くらい知らせてくれてもいいじゃないか」
「あぁ、悪い悪い。流石に公爵家の人を誰もいないところで待たせるのは気が引けてさ」
「よく言うよ。それより、大丈夫なんだろうな?」
フェイはユーキの近くまで近寄ると声を潜める。すぐにユーキも何のことを言っているのか理解できた。この中で唯一、ユーキの不調を知っているのは、朝に素振りをしているフェイだけだ。今日も朝の素振りではフェイについていけなかったので、体が万全でないことはバレている。
「あぁ、少なくとも迷惑にはならないように頑張るよ」
「あまり無理をするなよ。駄目だと思ったら、すぐに言うんだぞ」
じっとユーキの目を見つめてくるフェイにユーキは面食らってしまった。どうやら今日のフェイは普段の五割増しで優しいようだ。
そんなフェイの言葉にユーキは黙って頷くことしかできなかった。
今回の主役兼護衛対象である聖女が現れたからだ。ユーキはもちろん、オーウェンですら緊張の一瞬を迎える。マリーに至っては顔の筋肉が引き攣りかけていた。
「マリーお姉さま! 今日はよろしくお願いします!」
――――ブフッ!!
マリーの口から伯爵家の御令嬢とは思えない音が響き渡った。
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