勇者の行方Ⅵ
「なぜ、俺たちなんですか?」
ユーキの言葉にオーウェンは困った表情を見せる。それもそうだろう、ユーキを選んだのはオーウェンではない。彼にそのような権限はない。
だから、困った末に視線が動いた先を追った。
「ふむ。それは確かに説明が足りんかったな」
ファンメル三世はオーウェンの視線を受けて、苦笑しながら立ち上がる。
「オーウェン君や学園長から話は聞いている。今回の学園のダンジョンの事件の解決の糸口は、君たちだった、と。既にユーキ君は一度、大きな事件を解決しており、その他のメンバーも才能豊かな人材だ。特に能力だけで言うなら、吸血鬼の真祖であるフラン・パーカー・ド・タウルス嬢は相当なものだろう、我が国の民として誇るべき逸材だと確信している」
「陛下。それは!?」
宰相も聖女も、公爵も全員が同じ反応を見せた。それはユーキたちも同じだったが、驚くべき点は二点存在していた。
一つは彼女が吸血鬼であること。国王が正式に吸血鬼の存在を認め、保護下に置くと宣言しているようなものだ。流石に宰相もそれを想定していなかったのか。瞳が限界まで開かれている。
問題は聖女たちの方だ。ユーキは真っ先にそちらへと目を向けた。大抵の場合、あらゆる物語で吸血鬼は迫害の対象となる。その急先鋒は教会などの神を信奉する者たちであることは、世界が違えど予想をするのは難しくない。
しかし、ユーキの予想とは裏腹に騎士も聖女も全くと言っていいほど敵意を見せていなかった。
「タウルスってお父様の……?」
もう一つは爵位だ。本来、タウルスはフランの父であるフェリクス・パーカーの爵位である。本来は世襲できないはずにもかかわらず、フランの名前には爵位がつけられていた。
「うむ。残念ながら君の父上は我が騎士団に手を出したため爵位を取り上げることとなった。そして、その空白になった爵位を君にそのまま渡すことにしたのだよ」
「しかし、私は何も……」
父も伯父も商人として大成功を収めたからこそ、貴族という爵位を貰うことができた。フラン自身はまだ何もしたことがないのだから、爵位を貰うのはおかしいと感じることは何ら不思議なことではない。
「あ……」
そんな中、アイリスが声を上げた。その視線は別の扉から入ってきた給仕たちの手元へと向けられる。
「今度、開かれる催し物で出す物を悩んでいてな。何の気なしに城を抜け……ん゛ん゛っ。もとい、調べ物をしていたら、何やら城下で流行の食べ物らしくてな。料理長に聞いてみれば、お主の名前が商会ギルドに入っているではないか。水を象徴とする我が国としては、これ以外にないと思ってな。まぁ、そういうわけで、ただの肩書だ。余の僅かばかりの礼だと思ってもらっておけ」
目の前に並べられた豪華なかき氷、とは似ても似つかぬ様相を呈した食べ物にユーキは度肝を抜かれた。シロップが掛けられただけでなく、諸々のフルーツを凍らせてパフェのような姿に見えなくもない。
「悩んでいた食べ物の案も出したし、涼しくなって仕事も進む。ここ一ヶ月の中でここまで気分良く仕事ができたのも、お主のおかげよ。先程も言ったが、堅苦しいのは好かなくてな。こういうものでも食べながら、話を進めようではないか」
ファンメル三世が待ちきれないとばかりにかき氷を見つめる姿を見て、ユーキはマリーへと問いかけた。
「なぁ、もしかして陛下って、結構、お父さんと似てたりする?」
「――――ノーコメントっ!」
静かに呟いたが、それは認めたい一方で言ってはいけない何かがあったのだろう。表情で察してくれとでも言いたげな目がユーキを射抜いた。
「豪華、おいしそう」
「そうだとも。やはり味の変化が大切でな。果物の酸味とシロップの甘みは交互に食べるとおいしいぞ。さぁ、食べるがよい」
まるで親子のようにファンメル三世はアイリスを座って食べるように促す。アイリスも相当肝が据わっているのか、国王相手に何も気にせず席へと真っ先に座り、置かれたかき氷へと手を付けた。
「おい、ふぃい」
無邪気な子供の笑顔というのは癒しの効果があるのだろう。誰もがファンメル三世の爆弾発言に驚かされながらも、自然と受け入れつつあった。
「陛下。後で、お話がございます」
すぐ側で控えていた宰相を除いて、だが。
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