勇者の行方Ⅴ
一人、また一人と目の前に並んだ人の顔を見つめていく。
本来なら許可なくそのようなことを行えば、首を境に頭と胴がお別れをすることになるだろう。
「なに、こちらが無理に呼んだのだ。少し楽にするといい」
ファンメル三世は喉の奥で笑いを噛み殺しながらユーキたちを見つめる。
「陛下。揶揄うのもそこまでにされた方がいいでしょう。辺境伯の娘たちならいざ知らず。異国の者に冗談は通じにくいかと」
「それもそうか。まぁ、なんだ。堅苦しいのは好きではないのでな。そこに座ると良い。王家と聖女の二人を前に同席できたのであれば、末代まで語るネタの一つにはなるだろう」
「――――陛下」
宰相の二度目の忠告に、ファンメル三世も流石に渋い顔をして聖女を見る。今までの会話は気にせずに話をするよう、ファンメル三世は視線で促した。
「改めて、先日の護衛任務ご苦労様でした。聞いた話では私の部下を襲撃者から救ってくれた、と聞いています」
聖女と紹介された女性は立ち上がってお礼をする。控えている二人の騎士は微動だにせずに、ユーキたちを兜の奥から観察している。
唯一、動いているのが護衛任務の護衛対象であり、聖女の影武者を務めた少女アルトがひらひらと手を振っていた。
「それで私たちが呼ばれた理由とは何でしょうか?」
「それは僕から説明しよう」
ユーキが疑問を呈すると部屋の隅から声が上がった。
「オーウェっつ!?」
「馬鹿、ここでは学園の生徒会長じゃない。あいつは公爵の跡取りだぜ。口の利き方に気をつけろ」
マリーが後ろからユーキの尻を思いっきり抓った。
オーウェン自身もユーキが名前を呼ぼうとした瞬間。殺気にも近い威圧を飛ばして、口を閉じさせようとしていた。
その様子をファンメル三世はおかしそうに、宰相と奥に控えていたライナーガンマ公爵は渋い顔で見ていた。
「さて、ここにおられる方は聖教国サケルラクリマの聖女アストルム様だ。みな、聖女の言い伝えは知っているな?」
ユーキは声を大にして、「そんなものは知らない」と言いたいが、言い出した瞬間にまた尻を抓られかねない。挙動不審に周りの顔を見回しているとサクラが助け船を出した。
「あの、すいません。ユーキさんは多分、記憶を少し失っているので覚えていないかも……」
「そうか。なら簡単に話そう。過去に聖女は何度か予言を星神から受け取っている。そのほとんどが、魔王と呼ばれる強大な存在の出現とその倒し方についてだ。おとぎ話のように、勇者を探し出し、仲間と共に敵を討つ、というものだよ」
一瞬、躊躇ったオーウェンはユーキたちを見て、告げる。
「先日、勇者を探すように託宣があったそうだ。君たちが呼ばれたのは、その勇者を探すために力を貸してほしいからだ」
ユーキたちがオーウェンの言ったことを理解するには十秒ほど時間が必要だった。絶句していたマリーが真っ先に口を開く。
「冗談――――じゃないんですよね?」
「無論。本気だ」
首を錆びついた機械のように動かしてファンメル三世へと視線を送るが、当の本人は笑みを押さえるのみ。横に控えている宰相の顔が渋いのが現実味を感じさせる。
「勇者を探せ、ということは近い内に魔王が出現する。そういうことと捉えて構わないということですか……?」
フェイの問いかけに聖女は笑みを崩さず目を細めるのみ。自然とフェイの顔は疑惑の色に染まっていく。言葉にするのならば、「何かの罠なのではないのか」と言いたげだ。
思えば、護衛の依頼においても不自然な点が多かった。一歩間違えれば人が死にかねないところに学生を放り込むなどというのは、本来あるべきことではないはずだ。或いは、本当にここにいる誰もが予想できない不測の事態が発生していたか、だ。
ユーキはじっと聖女の目を見つめるが、聖女からはかけ離れている殺気のようなものを感じ取っていた。あれが聖女というのならば、まだアイリスのような子供の瞳の方がきれいに映る。
ユーキは喉が知らぬ間に渇いて、引き攣るような痛みを訴えていることに気付いた。部屋には魔法で涼しくなるような道具が使われているが、それでも背中を一筋の汗が伝っていった。
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