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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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勇者の行方Ⅳ

「わ、私なんて、みんなを襲って勝手に倒れてダンジョンにもついていけず襲われている時にも何にもできずに怯えているだけしかできないダメ女なんです……」


 ギルドの騒めきとフランとの距離から、決して届くはずがないのに、何故かユーキたちの下にまでフランの言葉が聞こえてきた。


「何か独り言が呪詛のようになってるんだけど……」

「言霊ってあるから、あながち間違いじゃないかも……。自分で自分を呪ってるみたいな」


 苦笑しながらもフランの方へと歩いていくと、当の本人は近づくにつれて柱の影へと隠れてしまう。


「おい、フラン。お前だってゴーレム一人で倒せるくらい凄いんだから気にすんなよ」

「あと、計算が、早い」

「ゴーレム倒せるのは私の力じゃないし、計算が早いのは商家の娘だから……」


 今は何を言ってもマイナス方向にしか行かないだろうとユーキとフェイが顔を見合わせる。ふと、ユーキはフランが商会ギルドに登録した「かき氷」のいわゆる特許を思い出した。売り上げ利益のほんの一部がユーキとフランへ送られてくることになっているのだが、忙しい為かギルドの貯金額を逐一確かめている暇がなかった。


「そういえば、かき氷のアイデア使用料ってどれくらいの稼ぎになってるかフラン知ってる?」

「……金貨二枚です。ユーキさんと私で四枚」

「ちょっと、待った」


 ユーキは記憶を辿って思い出そうとする。確かかき氷を登録したのは二十日ほど前のこと。一ヶ月弱で、夏場限定とはいえ金貨四枚の利益を叩き出すのはかなり儲けている方だ。


「冷静に考えて、働かずに金貨四枚って、商人の才能かどうかはわからないけど凄いことなんじゃ?」

「……普通に働いても金貨二枚は庶民からすれば多い方だと思うよ。騎士たちだって特殊技能がないと維持費で色々消えて使えるお金なんて手元に残らないことも有るくらいだから」


 柱からちょこっとだけフランが顔を出す。その目は怯えている小動物そのものと言っていいほど、小刻みに揺れ動いていた。


「じゃあ、同じように、とはいかないけど、似たようなことを二、三個やれたら暮らしには困らなそうだよね」

「その時点で将来は安泰だな。少なくとも、売れている限りは。まぁ、あたしだったら夏は毎日食べたいぜ」

「一日、二個でもいい」


 アイリスの顔が少しずつ明るくなっていく。


「お恥ずかしい話、私の目指すアラバスター商会クラスになると一日の利益がすごいことになるので、ずっと悩んでいたんです。そうですよね。今の利益なら完全に商人としては間違ったことはしていないですものね」

「フランさん。元気になりました?」

「はい。最初は()()()()()程度では、先が長いなんて思っていたんですけど」


 その瞬間、全員の時が止まった。


「えーとフランさん? 先程、金貨二枚っておっしゃってませんでした?」

「いえ? 『大』金貨二枚ですよ?」


 ユーキは頭が痛くなった。単純利益の十パーセントが四百万なら、本来の利益は四千万。

 もともと大金を見ることなどほとんどないユーキからすれば、桁が違い過ぎて想像できる範囲を超えてしまっているのは仕方のないことだろう。


「え、ナニコレ。ちょっと怖いんだけど……」

「ユーキ。それくらいの額で驚いてたら父さんの屋敷で暮らしていけないぜ。絵だけで軽く大金貨五枚を超える奴があったりするからな」

「俺、次からお前の屋敷に絶対泊まらない」

「慣れだよ、ユーキさん。私も最初はそうだったから」


 最初は微笑んでいたサクラも、よく見ると目の光が消えていた。何か嫌な思い出でもあったのだろう。何事もなかったかのように涼しく振舞うフェイ。何も気にしていないマリーとアイリス。そして、絵画の額に再び気落ちするフラン。

 ユーキとサクラは顔を見合わせるとお互いに頷いた。


「「お金って怖いよな(ですね)」


 乾いた笑い声をあげていた二人の後ろで金属が擦れる音が何度か響いた。最初は冒険者の者だろうと気にしていなかったが、その数の多さと音の大きさにふと振り返ると、漆黒の鎧を着こんだ騎士十数名に取り囲まれていた。

 騎士が鎧の目の部分を開けて、ユーキたちを一通り見回す。鎧の中から籠った声が聞こえるが、その声は若い女性のものだった。


「ローレンス辺境伯の御令嬢とその騎士。ご学友のサクラ殿、フラン殿、ユーキ殿。そして――――」


 一瞬、躊躇うかのような間があった後、意を決したように鎧の中の人物は声を絞り出した。


「アイリス殿ですね。お忙しいところ申し訳ないが、我々に同行していただきたい」

「何故でしょうか?」


 ただならぬ雰囲気にギルド全体が静寂に包まれている。上の階からも奇異の視線が突き刺さっているのがよく感じられた。


「申し訳ありませんが、ここでは申し上げられません。我々と共に城まで来ていただけると助かります」


 目の部分しか見えないが、射抜くような視線に思わず後退りしたくなるのをぐっとこらえた。後ろにいるフェイに目配せするとフェイは黙ってうなずいた。


「わかりました」

「ご協力感謝します。私が先頭に立ちますので、ついて来てください」


 事務的に告げると、すぐに踵を返してギルドの出口へと向かい始める。ギルドのざわめきを背にユーキたちは、暑く照り付ける日差しのカーテンへと進んで行った。

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