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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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雷霆の枷Ⅶ

 暗闇でフラッシュを焚かれたように、網膜に残像が映り景色がぼやける。

 その間にも後ろの男たちの距離が近くなる。


「魔法使いも大変だよな。詠唱なしでも使える魔法はあるが、ここまで接近しちまえば、ナイフの方が圧倒的に早い」


 流石に危険を感じたアイリスが踵を返すが、男の腕に捕まれる方が先だった。そのまま引き寄せられ、首に手を回されてナイフを突きつけられる。


「声を出すな。動くな。こちとら色々とあって、ギルドを追い出されかけてる冒険者様でな。もう失うものもないから、ここらで一攫千金の大博打中なんだわ」

「リーダーもツイてるよな。こんな狭くて暗い道を好んで歩く奴はいないのに、獲物が団体でやってくるなんて」

「ちっ。外道が……」


 フェイが悪態をつくと、後ろのパンダナ男は嬉しそうに笑う。


「外道、卑怯、大いに結構。世の中は理不尽もたくさんあるんだぜ。勉強になったな、ガキ」


 後ろの男たちが近付くとユーキは前をフェイに任せて、サクラたちの前へと割り込んだ。筋肉の悲鳴を上げる音が聞こえるが、下唇を噛んで我慢する。

 その様子をスキンヘッドは何も語らず、パンダナ男がいらつきながらナイフをパタパタと動かす。


「何だ、何だ? ガールフレンドにかっこいいところ見せようってか? 悪いが大人と子供じゃ、腕っぷしの力が違うんだよねぇ」


 あと数歩という場所から、男がいきなりユーキの目の前に現れると、その腹に足先がめり込んだ。


「がっ!?」

「おっと、悪いな。腕の話してたら足が先に出ちまった」


 反射的にマリーとサクラが杖を抜くがパンダナ男は笑いながら後ろをナイフで指し示す。振り返ればアイリスの顔へとさらにナイフが近付いている光景が目に入る。


「おい、アイリスに何しやがる」

「なーに、ちょっとばかり顔にナイフが刺さったって痛いだけだろう? あとで魔法を使って直してやればいいじゃねぇか」

「そういう問題じゃありません」


 フランも叫ぶがリーダーの男は馬耳東風といった感じで眉すら動かさない。その上、ナイフ横腹でアイリスの頬を叩きながら告げる。


「おい、聞こえなかったか? 俺は声を出すな、つったんだ。お前もだ。グダグダ話してるとぶっ殺すぞ」

「す、すんません。兄貴」


 パンダナ男が焦っている傍らユーキは、咽ながらも体へと魔力を流そうとする。だが、魔力を増やすごとに体への痛みが激増した。指先は突き指して骨が砕けたのかと思うくらいに痛みが奔っている。唯一の救いは、普段からガンドを撃っている右腕は、痛みがほとんどないことだろう。

 ユーキは右手を握りしめて、調子を確かめると魔力で弾丸を形成し始める。腕から指先までが痛みを通り越して痺れに変わり、歯をくいしばって耐えた。


「さて、もう一度言うぞ。俺らが欲しいのはダンジョンの情報だが、それ以外でも構わない。そう、例えば最下層で得た謎の金属とかな」

「何故、それを……!」

「ほう、ということは、お前らもその話を聞いたのか。或いは、()()()()()()か」


 フランはしまった、という顔をするがもう遅い。男たちの目に不穏な光が宿る。


「じゃあ、渡してもらおうか。その金属とやらを」

「あたしらは、持ってないぜ。全部先輩方が持ってったからよ」


 マリーの反応にリーダーの後ろの二人が顔を見合わせていると、スキンヘッドの男がわずかに頷いたのがユーキに見えた。


「そうか。じゃあ、仕方ない。有り金と杖、貴金属を全部置いて行きな。後、この嬢ちゃんもしばらく預かるぜ」

「何だと?」

「おっと、別に逆らっても構わんぞ。こいつがどうなってもいいのならな。どっちみち、このままお前らを返したら、俺たちが追われるだけになる。保険をかけておくに越したことはない」


 大口を開けて笑うリーダーとその取り巻き立ち。そんな中、怒られた手前のパンダナ男は笑っていいのかわからずに口の端を引きつらせ、スキンヘッドはピクリとも動かない。


「おい、お前らも笑えよ。こっからが楽しいところだからな」


 苦しそうにもがくアイリスを抑えつけたまま、男はナイフを持った手でその二人にも声をかける。パンダナ男が乾いた声で笑おうとすると、空気を裂くような音が路地に木霊した。

 真っ先に変化が現れたのはパンダナ男だった。目をカッと見開くとそのまま前のめりに倒れ、うつ伏せのまま、軽く痙攣を起こす。


「――――は?」


 次に変化を把握したのはリーダーの男とフェイだった。ナイフの刃が根元から折れて、石畳の上に落ちる。それと同時に取り巻きの男が二人崩れ落ちた。


「な、何がどうなって……?」


 さらに数秒遅れて、スキンヘッドの男は瞬き一つすることなく、膝から力が抜け、骨がなくなった軟体動物のように倒れ伏す。

 状況についていけなくなったリーダーの男は、ナイフの柄を投げ捨ててアイリスの首を絞めかかった。


「おい、何をしやがったてめーら。変なことしたら、このガキの首をへし折――――!?」

『まったく、このような男に私の技を使うのは不本意ですが、アイリスさんの為なら仕方ありませんね』


 ウンディーネの声だけが路地に響くと、あっという間に脇を流れる水路から水が集まり、男の顔を覆っていく。


「あの技は……!」


 サクラが思わずつぶやく。

 敵のや体全体を水球で覆い、窒息させる反則技。それは過去に何度か見たことがあるが、最近ではダンジョンの最下層でサイクロプスを象ったボスを倒した時だった。


『流石に何度も見れば、私にだってこれくらい簡単にできますからね』

「あ、あたしは、ちょっと人呼んでくるぜ」


 走り出したマリーを尻目に、フェイは身体強化で男へと一気に接近する。男の腕は水球にこそ触れるが、手はそれを引き剥がすことは叶わない。

 その一方、手が離れたことでアイリスは自然と解放される。咽るアイリスをフェイが素早く駆け寄って、足掻き続ける男から引き離すことに成功した。

 安全を確認したフェイは思いきり、男の鳩尾を右腕で殴り飛ばす。

 水球に白い泡が混じり、男はその場に倒れ伏した。どうやら、失神したらしい。フェイが冷や汗を拭って肩で息をしていると、後ろから何人かのかけてくる足音が響いた。

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