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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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雷霆の枷Ⅳ

 朝食を済ませて、六人で執務室を訪れると、真剣な顔をしたローレンス伯爵と魔法学園の学園長であるルーカスが座っていた。

 いつもは余裕のある伯爵の顔までもが神妙になっていて、娘であるマリーも流石に顔を引き締めた。


「疲れているところ済まないのぉ。じゃが、事は一刻を争うのでな。こうして朝早くから君たちに来てもらった」

「先日のダンジョンで起こったこと。その詳細を時間をかけてでも聞きたい。こうしてイスとテーブルも追加で運び込んだ。まずは座るといい」


 伯爵に促され、ユーキたちは椅子へと座る。

 ふとユーキが顔を向けると、ルーカスがじっと見つめてきていた。目つきが鋭く、いつもは飄々としている雰囲気が微塵も感じられない。

 その瞳から目を逸らせないでいると伯爵の声が響き、我に返った。


「フェイ。まずは簡単でいい。君が把握していることを話してくれ。我々は気になった時点で話を止めて、質問をする」

「わかりました。では、ダンジョンに入ったところから話をします。第一階層に着くとまずは――――」


 そこからはフェイと伯爵の二人による応答が続いた。

 時折、マリーやユーキ、サクラにも確認をとり、唸りを上げながらフェイに先を促す。

 ダンジョンの階層の入れ替わりには、さほど興味を示さず沈黙を貫いていたルーカスだが、ドッペルゲンガーの存在には声を荒げた。


「まさか人為的にドッペルゲンガーを作り出すとは……しかも、ユーキ君。その素材が赤子であるというのは本当かね?」

「確信はありません。ですが、自分の頭に流れ込んできた光景は……腹の中から無理矢理出されているように見えました」


 ユーキは戸惑いながらも口にした。声にこそ出さないがウンディーネを始め、フェイたちも怒りに震えていた。

 そんな中、感情を押さえているのか、伯爵は冷静に呟いた後、ルーカスへと同意を求める。


「確かに問題ではある。だが、それ以上に考えなければいけないことが存在している。そうですね? ルーカス先生」

「うむ、それを操っていた女とやらが、未だに捕縛できていないこと。そして、その女と手を組んだのが本校の生徒であるエリック・ラッセル君ということじゃ」


 怒りから一転。ルーカスの表情は悲しみの色に包まれた。その表情があまりにも悲壮過ぎて、みなが顔を見合わせていると、伯爵は一度目を瞑ってから絞り出すように告げた。


「エリックは逃亡した日に捕らえられ、現在、取り調べを受けている」

「あいつ捕まってたのか!?」


 マリーが思わず立ち上がると、伯爵は目線だけで向けて言葉を続ける。


「――――どうやら女からすれば、使える駒になればいい程度だったんだろう。縛られた縄も解かれずに、屋根の上に放置されていたところを発見された。連れて行かれる頃には、泣き喚くどころか立ち上がる力も残ってなかったようだがな」

「そんな……」

「自分が招いたこと。同情の余地、なし」


 サクラとフランが同情する一方で、マリーとアイリスは当然のような顔をして頷いている。フェイに関しても、どちらかというとマリーたちの心情に近いことが表情から伺える。

 ユーキはどちらかというとエリックのことより、逃げた女の方が気になっていた。


「ドッペルゲンガーを操ることができるという点では、人も操れる可能性があります。エリックが操られていた可能性を考えると、女の確保が最優先だと思うのですが」


 ユーキの言葉に伯爵も頷いた。


「そうだな。当然、我々も洗脳などの魔法による本人の意識の喪失状態だったことを疑った」

「――――彼に、そのような魔法が使われた痕跡は見つからなかったのじゃ」


 その後、一時間ほど女とエリックの犯行の状況などを確認作業が続いた。

 

「後は彼らがどのようなことを言っていたのかを可能な限り書き出さなければいけないが……」

「あ、それなら、心配ご無用です」


 フランが立ち上がると、みな目を丸くして見つめる。胸を張ってフランはユーキを指差した。


「ユーキさんの革袋の中に自動記録処理が施されている羊皮紙を入れておきました。ユーキさんが聞き取っていた声は基本的にすべて羊皮紙に自動で浮かび上がらせることができます」

「おい、ちょっと待て。そんなこと聞いていないぞ」

「言ってないですもの。でも、ダンジョンに行く時には役に立つんですよ。特に、他のパーティと揉めた時なんかは、証拠として扱うことができることも有るんですから」

「俺のプライバシーを侵害するなと言っているっ!」

「ユーキさん。フランさんも悪気はなかったみたいだから落ち着いて」


 ユーキがイラついている中、伯爵はおもむろに立ち上がった。


「やるじゃないか。それがあれば話は早い。それを使えば問題の解決に一歩近づく」

「良くも悪くも、じゃがな」

「あ、ただ……」


 フェイが不安気に手を挙げる。その様子に伯爵が物珍しそうな目で振り向いた。


「どうした? いつものお前らしくない。言いたいことがあるなら、言うと良い」


 フェイはユーキたちの方を一通り見た後、言い辛そうに呟いた。


「その……記録の最後の方はあまり見ない方がいいかもしれません」

「なぜじゃ?」

「あのダンジョンを突破したことだけじゃなく、その最下層に住んでいた神を名乗る方との会話も記録されているからです」


 よりによって重大な出来事を端的に伝えてしまったからだろう。フェイも言ってからしまったと気付いたが、もう遅い。伯爵とルーカスの悲鳴にも似た叫び声が、館中に響き渡った。

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