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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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雷霆の枷Ⅲ

 朝の食堂に向かうと、既に見知った顔の女子たちが席について、食事を始めているところだった。日ノ本国からの留学生であるサクラの隣へと向かうと、彼女たちも気付いたようで手を振っていた。


「ユーキさん。おはよう」

「あぁ、おはよう。あれから一日たったけど、体調とかは大丈夫?」

「うん、もちろん。やっぱり土や岩の上よりベッドで寝た方が疲れも取れやすいよね」


 笑顔で会話を弾ませていると、サクラの正面に座っていた吸血鬼のフランが肘をついて前に出る。真祖であるため、陽が出ていても問題なく行動できるのが彼女の強みなのだが、吸血鬼が昼間に活動している姿を見たら、一部の人々は卒倒するに違いない。


「おはようございます。昨日はサクラさんから色々とお話を聞きました。私の計算通り、爆破石が役に立ったことも」

「そ、そうだな」

「ただ、やはり表現は人それぞれ違うと思うので、ぜひ、ユーキさんからもダンジョンでのお話を聞ければいいなと思っているのですが……」


 妙な気迫にユーキは背を仰け反らせる。その横に座ったフェイは、運ばれてきた食事に手を付けながらフランを横目に告げる。


「伯爵の所にみんな呼ばれて説明をすることになると思うから、そこで存分に聞くと良い。少なくとも、食事中に血生臭い話は、あまり気持ちのいいものではないだろう?」

「そ、そうですね。私としたことが……」

「いやいや、フランは吸血鬼なんだから、むしろ血生臭い方が普通なんじゃない?」


 この屋敷の主であるローレンス辺境伯の次女のマリーが、フランを挟んでフェイへと問いかけるが、フェイは首を振った。


「マリー。流石にそれはデリカシーにかけると思います」

「む、正論なだけに何も言えない」


 ぐぬぬ、と悔しそうに呻く正面でマリーたちよりも一回り小柄なアイリスが不思議そうに顔を傾ける。いつもは食事中は食べることに夢中になるのに珍しい光景だった。


「フランは実際に血を飲んだことあるの?」

「い、いえ。それが今まで一度もなくて……。むしろ血を飲むことを想像すると、頭がくらくらするというか」

「あー。血が苦手な人っているよな。見ただけで倒れちゃう人とか」


 ユーキも友人でそういう人がいたからわかる。自身も得意な方ではあまりないが、目の前で倒れられた時には何事かと驚いた程だ。


「でも、それだと死活問題だよね? 今は首に下げているルビーの中の魔力があるおかげで補充出来てるからいいけど、魔力が枯渇しちゃったら補充しなきゃいけないでしょ?」

「まぁ、はい。実際に魔力が足りなくなった時も、それほど血が吸いたいとは思わなかったので、ルビーに魔力を込めていただければ、大丈夫だと思います」


 微笑みながらフランはパンを頬張った。

 自分が平穏に生きていくためには、人から吸血してはならないことが条件だ。一度犠牲者を出せば、国を追われ、孤独な人生を送ることになる。

 サクラたちがかなり突っ込んだ話をするのも、フランのことが心配だからだ。それをわかっているからこそ、フランも怒らずに笑っていられるのだろう。

 ユーキはその光景を見つつ、フランの胸元へと魔眼を向けた。数日前に渡したルビーは未だ色褪せずに、神々しい光を放っている。一先ずの安全が確認できたのでユーキがほっと一息ついて、コップの水を飲み干す。

 コップを置いた瞬間、すぐにコップへと水が継ぎ足された。

 人の気配をあまりにも感じさせなかったので、驚いて振り向くと茶髪のメイドが水差しを片手に立っていた。


「すいません。驚かせてしまいましたか?」

「いえ。あまりにも自然に水が足されたので魔法か何かかと」

「お褒めの言葉ありがとうございます」


 とても顔はかわいらしいのに、どこか冷めきった表情にユーキは既視感を感じた。まじまじと顔を見つめると、流石にメイドもユーキを訝しむ。


「あの、何か粗相でもありましたでしょうか?」

「いや、どこかで見かけたことがあるな、なんて思って。あまりメイドさんを間近で見続けたことなんて数えるほどしかないから」


 その言葉に横にいたサクラが若干、ムッとした顔で二人の様子を窺い始める。そんな視線を物ともせず、メイドは背筋を伸ばしたままハキハキと答えた。


「以前、錬金術師のロジャー様がいらっしゃった時に応対させていただきました。その際にユーキ様をご案内したので、その時のことでしょう」

「あぁ、あの時の――――」


 ユーキは記憶の片隅からその時のことを思い出すと同時に、背中に冷や汗が出そうなほど「嫌なこと」を思い出してしまった。

 あまりの表情の変化の無さに思わず魔眼で見てしまったのだ。その時の彼女は真っ黒な靄に囲まれていた。


「(――――黒い、靄?)」


 そこまで来て、ユーキはつい先日の出来事が頭に過ぎってしまう。

 ダンジョン内で魔法学園の生徒たちの姿を盗み、暗躍していたドッペルゲンガーたち。彼らの正体はユーキの魔眼を通してみると、黒い靄がその姿を覆っていた。


「ユーキさん。あまりおしゃべりしてると置いてっちゃうよ?」

「あ、あぁ、ごめん」


 サクラに言われて振り返ると、サクラたちは既に食べ終わり、フェイも後はほんの少しのパンを残すのみとなっていた。


「それでは、皆様方。今日もよい一日をお過ごしくださいませ」

「ありがとう、ジェーン。お前も良い一日を!」


 マリーが片手を上げて、メイドを見送る。

 ユーキは顔だけをそちらへと向けて魔眼を開いた。そこにはダンジョンで見た時よりも濃密な黒い靄が彼女の体を覆っているのが、はっきりと見える。それなのにも拘わらず、何故かユーキは彼女が危険だという風には思えなかった。

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[一言] え、ドッペルゲンガー放置?前の反省をば
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