報酬Ⅴ
ユーキは二人に支えられながら呼吸を整えると、プロンテスを見上げた。
「俺の架空神経に魔力を流して無理矢理広げた、と考えればいいのかな?」
「その通りだ。我のこのハンマーの能力でお前の潜在能力を垣間見た。魔法を扱うのならば火と風に属するものが適しているだろう。それなのにもかかわらず、未だに風の魔法を使った形跡が見当たらん」
納得がいかんとばかりにプロンテスは首を傾げる。
「確かに、火球の魔法ができるくらいで、水なんてほんの少し、風と地に至ってはほとんど失敗ばかりで……」
「地属性に関しては納得だが、風は鍛錬不足だろう。逆に水は何の因果か、後天的に才能が生まれたとでも言いたくなるような不思議な体質になっているな」
ユーキが苦笑いすると、プロンテスは立ち上がり呆れたように腕を組んだ。
「大方、その魔力の塊を放つ魔法ばかりを使っているのが原因だろう。お前には我にも判別できない何かがある。だが、少なくとも雷霆を扱う程度の才能があるのは間違いない。自信をもって鍛錬に励むと良い。ちょっとばかりキツイかもしれないが、身体強化をする時に風の魔法を強制的に発動できるようにしておいた。慣れるまでは頑張ると良い。鉄は熱い内に叩かねばならぬが、生物はいつ鍛えても強くなる」
不敵に笑うプロンテスだったが、ふと思い出したように空を見上げた。空は星で煌めき、一筋の流れ星が彼方へと消えていった。
「そろそろ時間だな。地上へと戻る準備は出来ているか?」
「こちらは大丈夫です」
「こっちもオーケーだぜ」
オーウェンとマリーが声を上げると足元が輝きだした。光の粒子が溢れ出し、ユーキたちの体を包んでいく。視界が狭まりゆく中でプロンテスはハンマーを掲げた。
「さらばだ。小さきなれど猛き者たちよ。願わくば、本来のダンジョンの姿を見て回った後に再会せんことを!」
「さようなら。あなたのようなスゴイ方に会えてよかった。今度はダンジョンを正式に踏破してみせるよ」
「じゃあな、一つ目の神様。次はあの雷に負けない魔法見せてやるからな!」
「私も、成長に期待してて」
ふわりと浮き上がる体に戸惑いながらも、一人一人が矢継ぎ早にプロンテスへと別れの言葉を送る。それに笑顔で応える中、ドッペルゲンガーたちもユーキたちに向かって手を振っていた。
「ありがとう! 運よく我々も生き延びることができそうだ。また、いつか会える日を楽しみにしているわ」
札使いへと化けたドッペルゲンガーが大声で叫ぶ。
「こちらこそ、ありがとう。君たちがいなければ、地上に帰れなかったよ。また会おう!」
「みなさん、お元気で!」
もう光が視界の大半を占め、フェイとサクラしか見えなくなった。お互い、地上へと戻れる喜びをかみしめながら笑顔でいると、サクラが思い出したように微笑んだ。
「そういえばユーキさん。転移の感覚にはなれたみたいだね。さっきの跳び降りるので、平気になったのかな?」
「……あ」
「その顔はもしかして、転移の感覚を言われるまで忘れてたって顔だね。一つ言っておくけど、口から何かを出さないでおくれよ?」
フェイが呆れた顔でユーキから距離をとろうとする。
しかし、ユーキはサクラとフェイに担がれていた状態だったので、思いっきり腕に力を入れて抱き寄せた。
「待って、この感覚本当に無理なんだ! 早いだけのジェットコースターには乗れても、浮き上がるような感覚の方は無理なんだよ!」
「じぇ、じぇっと……なんだって!?」
ユーキの慌てた様子にフェイも揶揄いが過ぎたかと頬が引き攣る。パニックになったメンバーほど面倒なものはない。子供のように混乱するユーキの胸をサクラがポンポンと叩く。
「はいはい。ユーキさーん。大きく息吸ってくださいねー。はい、スーハー、スーハー」
「スーハー……じゃなくて、本当に――――!?」
ユーキの慌てふためく声が最後まで言い切られることなく、上空に浮かんだ光球は次々と姿を消した。残されたのは満天の星を見上げるプロンテスとドッペルゲンガーたちだけだった。
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