報酬Ⅲ
傅いてオーウェンは一言告げる。
「我が国に訪れている聖女に相応しい品を」
「聖女……とは?」
「は、このダンジョンのある国とは別にある星神を祀る国。その国における神の声を聞く者が聖女であります。伝え聞くところによれば、魔王の復活の際には、必ず聖女が勇者の降臨を神より賜る、と」
プロンテスはオーウェンの話を聞くと腕を組んで首を捻る。僅かに喉の奥から唸り声のような音すら聞こえてくる。
「魔王……魔王か。ずっとダンジョンに籠っていたから、そんな話は聞いたことがないな」
そう言いながらもハンマーで地面をこつんと叩くと地面から真っ黒な木箱が湧いて出てきた。もう一度、黒い木箱を叩くと箱が割れ、中からペンデュラム型の黒い塊が姿を現す。
「別段、珍しいものではないが黒水晶をカットしたものだ。身に着けるための装飾を作るのは、不得手だからそれはそっちに任せる。普通の鉱脈で取れる物より質は遥かに良い上に、炎の魔力を溜め込んでいる。変な悪霊に取り付かれない上に、何かあった時は守ってくれるだろう」
「は、ありがたく頂戴いたします」
プロンテスは頷くと、後方に控えていたエリーへと問いかけた。
「そちらの少女は、何か望みの物はあったりするのか?」
「その、あなたは鍛冶をされるのですよね?」
エリーの問いかけに、プロンテスは大きく頷く。
「無論。師、ヘパイストスの腕には敵わぬが。それなりのものと自負している」
「鍛冶では非常に熱い炎を扱うと聞きます。時には、その炎で体を焦がす者もいるとか。もし、火傷に効く薬などがあればいただきたいです」
「エリー……!」
オーウェンが焦って口を止めようとする。神に火傷という失敗などあるはずがないだろうに、それは愚弄していると取られても仕方がない。聞いていた何人かも、その言葉に同様の焦りを感じた。
しかし、ユーキはそれ以外にも何か別の焦りをオーウェンから感じていた。むしろ、彼女の言った火傷の薬が何故必要になるのだろうか、という考えが浮かんで仕方がなかった。
怒るかと思われたプロンテスだったが、その表情は穏やかだった。もう一度、地面とハンマーで叩くと今度は粘度の高い白い液体が入った瓶が現れた。
「あまり使うことはないが、これは人間にも効くだろう。師の離縁した妻が使っていた化粧水だ。美の女神だけあって、皺やくすみに効く薬液を多数使っていたようだ」
「な、何故、それをあなたが……?」
「師は大層、前妻を嫌っていてな。残されていた私物は送り返すか、我々の所に押し付け――――もとい、送ってくださったのだ。醜い火傷跡もたちまち治る。時々、やらかしていた頃には、世話になったものよ」
昔の不出来な自分を思い出したのか、どこか懐かしそうにプロンテスは苦笑する。数百年以上を生きても、まだたゆまぬ努力をしていることを感じさせる顔に、エリーは一瞬、見とれてしまっていた。
「とてもお師匠様のことがお好きなんですね」
「あぁ、我ら兄弟に生きがいをくれた方だ。だから、これを役立ててくれたら助かる。師は嫌そうな顔をするかもしれないがな」
そう言ってプロンテスは指でつまみ上げるように――――人間からすれば両手で抱えなければいけないが――――エリーへと手渡す。オーウェンも落とさないように瓶を支えるとプロンテスは再び満足そうに頷いた。
「はてさて、先ほどの質問からそちらは誰もまだ動いていないが、何か望み物でも?」
ユーキたちは顔見合わせるが戸惑いの表情を隠せずにいた。
「何か望むって言われても……」
「困っちゃうよなー」
「私たちがここに入った目的は達成しちゃってるし」
「ここに閉じ込められた人も地上に戻れるからな」
「特に、なし」
『――――ですね』
最後のウンディーネの声にプロンテスは若干驚いた表情をするが、唐突に天を仰いで大笑いし始めた。オーウェンたちも含めて呆気にとられる。十数秒笑い続けた後、目に浮かんだ涙を拭きとりながら、プロンテスはユーキたちを面白いものを見るように一人ずつ顔を見つめた。
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