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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第5巻 暗黒の淵にて、明星を待つ

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報酬Ⅱ

 雷鳴の轟きが収まると、空も次第に雲が途切れて月光が差し込み始める。唐突で壮大な自己紹介ではあったが、天候を目の前で操られてしまっては認めざるを得ないだろう。

 全員が呆気に取られて、身の丈三メートルに届こうかという巨体を見つめていると、不敵にプロンテスは笑った。


「まぁ、それも昔の話でな。今はただの鍛冶屋兼ダンジョン管理人じゃ。ダンジョンの異変を察知して、モンスターの脅威度を低くしたとはいえ、よくぞここに辿り着いた。短い時間ではあるが、君らを歓迎しよう。人の子よ」


 先程のサイクロプスとは似ても似つかない柔らかい笑みに、ユーキたちの中で安堵感が生まれる。神なんて存在に逆らえば何をされるかわからない。機嫌を損ねていないだけマシという物だろう。


「とりあえず、まずはラスボスを倒した褒美じゃな。どれ、ちょっとどいておくれ」


 ハンマーで道を譲るよう左右に動かすとプロンテスは、そのままサイクロプスが残した巨大な剣の方へと近寄っていく。

 巨大な剣の下へとハンマーを入れるとまるで枯れ葉の下の虫でも探すかのように、剣を数十センチ持ち上げた。


「あの一つ目。どんだけ力持ちなんだよ……」


 マリーが驚いていると、唐突にプロンテスはハンマーを剣の下から引き抜いた。鉄板を大きく叩くような音が響き、土埃が舞う。


「うむ。まずはこれが良かろう」


 何気なく振り上げたハンマーは、唐突に赤い炎を纏う。やがて色が黄色へ、そして白へと変化していった。炎自体はハンマーの先にのみ宿っているはずなのに、まるで肌が焼けるような熱さを勇輝は感じた。

 そのままハンマーは横たわる巨大な剣の横腹へと叩きつけられる。大きな鐘を何度もかき鳴らすような音が響いていくと、叩いた部分に波紋が広がり、剣自体が炎へと包まれていく。


「そりゃ、受け取れい!」


 花火のスターマインのように、次々と剣が砕け散って七色に光りながら空へと飛び散る。その多くが闘技場の外へと飛び出していった。


「さあ、ここからは早い者勝ちだ。ダンジョンから強制的に転移で叩き出されるまで数十分。その間にどれだけ集められるかな?」


 その言葉に多くの生徒たちが騒ぎ出す。真っ先に駆け出したのはジェットだった。


「俺に任せろ。お前らの分も全部集めてきてやるぜ。はっはー!」

「ジェット!? 僕も行く!」

「放っておけ。ケヴィン。あれは最後に自滅するタイプだ。近くにあるやつを一つでいいから見つけられればいいだろう」


 アンドレがケヴィンの首根っこを捕まえて、崩れた外壁を下りようとするところを思いとどまらせる。

 ジェットの動きを見て、多くの生徒たちが我先にと外壁や近くの階段を駆け下りていく。大きな声が消え、静まり返っていくと、残されたのはユーキたちとドッペルゲンガーの集団だけだった。


「どうした。探しに行かんのか?」

「本当にこれで地上へと戻れるのかを確認したかったので」

「安心しろ。色々あってダンジョンを元通りに戻すには不可能な状態だったが、あいつが倒れたことでダンジョンは仮にもクリアされたことになった。ダンジョン内の人間を強制転移後、ダンジョンは正しく再構成されるまでは入れなくなるが、それはこっちが気にすることだ」


 ハンマーを肩に担いでプロンテスはため息をついた。だが、ユーキはその言葉に不安を覚えて、さらに疑問を口にする。


「人間は、ということは、彼らはどうなりますか?」


 プロンテスの視線はユーキの掲げた手の方向へと向けられた。そこには何十人もの人の形をしたドッペルゲンガーたちがいた。全員が不安そうな目でプロンテスを見つめている。

 ユーキは魔眼で彼らの状態の変化がよくわかっている。初めに会った時よりも黒い靄が減っているが、同時に普通の人よりも発する輝きが極端に低くなっているのだ。それを裏付けるかのようにプロンテスは目を伏せた。


「どうもこうもない。所詮は魂だけの存在よ。どんな邪法を使ったかは知らんが、結局はそれだけ。今は地上に縫い留められているが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。第三位にでも手を届かせん限りな……」

「第三位……?」


 アイリスの繰り返した呟きに、プロンテスがはっと瞳を大きくする。何らかの動揺があったのだろうが、すぐに表情を元に戻すと胸を叩いて大きく言い放った。


「だが、このまま捨て置くのも寝覚めが悪い。ホムンクルスとまでは行かぬが、適当な義体は用意できる。そちらに魂を定着させれば邪法に頼らずとも生きていけるだろう。ついでにこのダンジョンの階層をいじくってどこかに村でも作るか。そうすれば外に出ずとも暮らせるはずだ。そんな身で外界に出れば、すぐに実験動物か標本にされてしまうだろうからな」


 ドッペルゲンガーたちはお互いに顔を見合せた。どうするべきか悩んでいるようだったが、その答えはすぐにまとまった。

 ユーキの後ろにいた札使いのドッペルゲンガーがプロンテスの前に進み出た。


「プロンテス様。どうか我々をあなたの庇護下に置かせてください」

「構わんよ。ちょうど話し相手もいなくて退屈していたところだ。金属と炎は『良い』か『悪い』しか言ってくれんからな」


 大声で笑うとプロンテスはもう一つのパーティへと振り返る。


「それで、そちらの目的は?」


 そう問われて、オーウェンはプロンテスの前へと進み出た。

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