報酬Ⅰ
突然の生徒会長の出現とサイクロプスの討伐に歓声が上がる。
騒がしい声の中、ユーキは仲間と共に観客席の最下段まで駆け下りた。そのまま身を投げ出して話をしようとすると、マリーとアイリスが地上へと降りていく。ユーキは下を見て顔を引くつかせていると、サクラが肩に軽く触れてから目の前を跳び下りてしまった。
覚悟を決めてユーキも降りると一度目程怖くはないが、サクラが着地後に支えてくれても尻もちを着いてしまうくらいには、足腰に力が入っていなかった。
呆れた顔でオーウェンは近づいて来て、ユーキに手を差し出した。
「相変わらず、大変なことに巻き込まれてるね」
「そっちこそ、何でこんなところに?」
「君たちのお仲間から話を聞いてね。伯爵や他の貴族、軍が動いてしまう前に僕が偵察に来たというわけさ。僕が二日間戻らなかった場合は、本格的に軍が動いていただろうからね。そうなれば、色々と大変なことになっていたところだった」
魔法剣をサイクロプスに向けたまま、ユーキを助け起こす。その反動でわずかに水球の位置がぶれると、死んだと思われていたサイクロプスが体だけを起こして、オーウェンへと手を伸ばす。
「危ない!」
ユーキのガンドが三発連射で腕へと放たれる。一発目は赤い光に飲み込まれる。しかし、二発目以降は一発目の跡を辿って腕へと潜り込み、そのまま向こう側へと貫通する。
「へー。まだアレで生きてるんだ。ありがとう、助かったよ」
「会長。油断しないでください。心臓に悪いです」
サイクロプスの蘇生を見た生徒たちも今度は油断せず、魔法の嵐を浴びせる。その中でもオーウェンは涼しい顔で顔面に展開した水の魔法を維持していた。
「ユーキさん。今ならガンドも急所に当てられるんじゃないかな」
「今が、チャンス、だよ」
未だサイクロプスは自分の腕を押さえ、もがき苦しんでいる。頭を狙ってもいいが外してしまうのが関の山。それならばとユーキはサイクロプスの胸へと照準を合わせる。先程の連射で指が若干痛むが、できないほどではない。魔力を集めながら照準を絞っていくと、フェイの一撃がサイクロプスの首を切り裂いていくのが見えた。痛みに思わず首を押さえるサイクロプス。
この瞬間、ちょうど胸の中央が視界に大きく映り込んだ。すかさずユーキはガンドを三連射する。先程と同じように赤い光を切り裂いて胸へとガンドが着弾。唯一の違いは光弾が貫通することなく、胸の内で止まったことだろう。
しかし、それもどうでもいいことであった。心臓に穴が開いて生きていられる生物など存在しない。胸と首を押さえながら、断末魔すら上げることができずサイクロプスは最後に腕を天へと上げる。何かを掴もうと握りしめられた拳は、ふっと力が抜けると大きな音を残して倒れた。
「今度こそ……大丈夫か?」
「念のため、攻撃、しとく?」
アイリスが杖を構えるが、その必要はなさそうだった。サイクロプスの指から徐々に光の粒子となって消え始めたからだ。季節外れの蛍のように天へとそれらが昇っていく。
「さて、サイクロプスは倒したんだけど、どうやればダンジョンが正常に戻るんだ?」
「そうだな。ダンジョンの修復機能もさっきから働いているようには見えないしな」
フェイが周りを見回して呟く。マリーもその言葉に頷いて、サイクロプスが破壊した外壁をみるが、一向に修復が始まる様子は見えない。訝しんでいると背後から大きな声がかかる。
「はーっ! 騒がしいと思って遠くから様子を見ていたが、ここに来るまでに、また派手にやらかしたなぁ」
振り返ったユーキはぎょっとした。先程、倒したはずのサイクロプスを人間大にした大男が立っていたからだ。その手には武器というには扱いにくそうなハンマーを持っている。
その姿に各々が剣や杖を構えて半円に包囲網を築く。観客席側からも多くの生徒たちが異変に気付いて、背後から杖で狙いを定め始めた。
「その様子だと、あいつを倒したみたいだな。ダンジョンの様子がおかしくなっていたとはいえ、あいつを倒せるってことは実力があるのは間違いないか」
「動くなっ!」
フェイが剣を構えて、一歩詰め寄る。しかし、目の前のサイクロプスは一歩前へと足を踏み出した。
「はっ。この俺に剣を向けるとは威勢のいい羽虫よ。格の違いという物がわからないではなかろうに」
ハンマーで軽く地面を叩くと急にあたりが暗くなる。
見上げれば晴れ渡っていた空がいつの間にか黒雲に満たされていた。
「我が名は『プロンテス』。神なるサイクロプス三兄弟が一人よ」
名乗りと共に天空を幾条もの閃光が走り抜け、轟音を響かせる。青白い光と共に怪しくプロンテスの丸い瞳が輝いた。
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