サイクロプス討伐戦Ⅴ
魔眼で捉えていた光の軌跡が無ければ、ユーキはここに存在していなかっただろう。横へと思い切り飛んで避けた後、自分が先程までいた場所を見ると、見事に地面がなくなっていた。
正確には闘技場の一部が、ごっそりと削れ落ちていた。
「斬撃が……伸びた!?」
遅れてユーキの額に汗が浮かび上がる。
「ユーキさん!」
「来るなっ!」
振り上げた剣が今度は真上から振り下ろされる。再び風が巻き起こると、ユーキがいた場所が消しゴムで消したように消え、闘技場内のダンジョンが丸見えになっていた。
一変してしまった地形にユーキの姿を見つけられず。サクラの目に涙が浮かび上がる。その肩を誰かが叩いた。すぐに振り返るがそこには誰もいない。
だが、サクラにはそれで十分だった。すぐに階段を駆け下りて、闘技場の反対側を目指す。遅れて、マリーの火球が空へと放たれた。
――――作戦開始。
それは闘技場に辿り着いた生徒たちに伝えられた合図だった。「火球が上がったら外円部を放棄。サイクロプスを中央部へと誘導しながら後退せよ」だ。
流石にサイクロプスの持つ剣の威力に恐れをなし、生徒たちも我先にと逃げ出す。幸運なのは、その中でも絶えず魔法を放ち続けることができる精神力の持ち主がいたことだろう。サイクロプスもガンド程ではないにしろ、いつまでも無視して剣を奮う程の余裕はないようで、再び剣の横腹で防御体勢をとる。
全員が退避し終わるとサイクロプスは攻撃が来ないことを確認して、三度剣を奮った。そのまま闘技場の外壁と観客席は吹き飛び、サイクロプスが通れるくらいの道が出来上がる。
怖気づくかと思われた生徒たちだったが、剣が振り下ろされたと同時に魔法が放たれ、がら空きになった頭部などの上半身に攻撃が殺到する。それを放ったのは、フェイを先頭とする囮部隊だ。フェイ自身は魔法を放てないが、その後ろにいる数名のドッペルゲンガーたちは魔法を放ち、自分たちのいるところへとサイクロプスを引き込もうとする。
そんな中、サイクロプスは太ももを怪我しているためか、体を起こす際にも若干もたつき、予想以上に魔法がクリーンヒットする。それでも、その瞳は確実にフェイたちへと向けられ、今にも襲い掛からんとしていた。
フェイが合図を出して奥へと逃げていくと、サイクロプスはそれを追おうとして、体を前に進める。しかし、今度は観客席に陣取る生徒たちの魔法が押し寄せてきた。
眼球への被害を恐れてか、瞼を閉じたまま闘技場の壁へと手を付いて剣を担ぎ起こす。それは大きな隙となり、地属性の魔法を放つために今か今かと出番待っていた術者たちが一斉に声を上げた。
「「「『地に眠る鼓動を以て、その意を示せ。すべてを穿つ、巨石の墓標よ!!』」」」
示し合わせたわけでもないが、幾重にもわたって詠唱が闘技場内へ響き渡る。多くの者は地面から脚めがけて岩の槍を突き出した。脛や膝へとぶつかる嫌な音が響く。
またある者は同じ考えをもっていた者がいることを知り、瞬時に起点を変更する。すなわち、サイクロプスの後ろ側からの発動。それはふくらはぎやアキレス腱へと突き刺さり、確実にダメージを与えていく。強靭な肉体を持つとはいえ、流石のサイクロプスも呻き声を上げて再び地へと崩れ落ちる。岩の槍が抜けたところからは血が流れ、足元へと溜まっていく。このまま倒れていけば岩の槍が邪魔になり、足に深刻なダメージを負わせられるだろう。
「次、頼んだ!」
多くの生徒が魔力を回復させるポーションをあらかじめ飲んでいたが、追加で飲み干してより万全な状態で魔法を放ち続けようとしていた。お互いに肩を叩き、ポーションの補給を怠らない。
しかし、それだけの攻勢を受けてもラスボスと思わしき存在だけあって簡単には引き下がらない。重力に引かれながらも辛うじて剣を掴む手に力を入れ、倒れ伏すことを拒絶したサイクロプスは、さらに放たれる魔法の群れを見て左手で顔を庇った。
炸裂する魔法を庇いながら、足をそのまま前へと進める。手の後ろにある瞳は、まるで何かを恐れるかのように左右へと隈なく動く。
「このままだと、こっちに剣が届いちゃう、よ」
そう言いながらアイリスは魔法で足を重点的に狙いだすが、目立った効果は出ない。やがて、ひっきりなしに動き続けていた瞳が止まると、サイクロプスは剣を振りかぶった。それは全てを薙ぎ払うための横薙ぎの斬撃。魔法を放っていた生徒たちの顔に恐怖の色が浮かぶ。
その顔色を見てサイクロプスが初めて笑った。口裂け女のように口の端を吊り上げ、楽しくて仕方ないというように。
そのまま思いきり薙ごうとして、その背に誰かが手を付くのを感じた。何事かと振り向くと、同じ顔が自分を覗き込んでいた。
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