サイクロプス討伐戦Ⅲ
慌ててユーキたちが階段を駆け上がると、待機していたマリーが街の一角を指差した。
「あそこだ。さっきまで街をうろつくだけだったけど、こちらに進路を変えようとした瞬間、魔法が何発か炸裂したのが見えたぜ」
「遮蔽物の多い街中での遊撃戦か。サイクロプスだけなら有効だが、骸骨兵士も含めて対処するとなるとかなり難しいぞ」
フェイが心配の声を上げる中、サイクロプスへと火球が何発か飛ぶのが見えた。サイクロプスは右手に持った剣で薙ぎ払うが、遅れて放たれた数発が見事に顔面へと当たり、痛そうに顔を押さえて悶える。
すぐ横でマリーが両手をぎゅっと握り込む。強気な彼女でも心配で居ても立っても居られないと言った様子だ。対してユーキの顔には冷や汗が浮かんでいた。先程は逃げることで頭がいっぱいだったが、遠目で見ている今だからこそ理解できた。
サイクロプスの持つ大剣。その剣から放たれる光が揺らめくことなく、まるでもう一つの剣がそこに重なり合って存在しているかのように輝いているのだ。赤く炎のようでありながら、剣の形に添って直線を描く。
またサイクロプス自身も黄金に近い光を放ち、その剛腕で建物を地面ごと真っ二つにした。並大抵の魔法では体に傷がつかないだろうと、感覚で理解してしまう。
「まずい。誰か助けに行かないと……」
『逆です。ここで助けに行ってはいけません』
「なんで!?」
『フェイさんも言ってましたが、あれは遊撃戦。相手を混乱させて――――この場合は時間稼ぎが目的でしょう。その内、あのサイクロプスをこちらに誘導し始めると思います』
ウンディーネの意見に耳を傾けていると、それを証明するかのようにサイクロプスの背後で火球が爆ぜる。どこからの攻撃か判断がつかず、サイクロプスはあちこちの建物へと攻撃を加えるが、舞い上がる土煙で余計に視界を塞いでしまう。戦っていた者は、それを機とみて退却したのか。しばらく見ていても、それ以上、魔法が放たれることはなかった。
ユーキたち以外にもその光景を見ている者は多かったが、大きな混乱もなく。むしろ、一方的に攻撃を加えられるサイクロプスを見て、士気が上がっていた。
「これもアンドレさんの仕業かな?」
「だろうな。仲間を集めながら遊撃隊を結成し、時間稼ぎと士気の向上までやってのける。将来は良い将になりそうだ」
フェイが周りを見ながら称賛する。普段、厳しいフェイが手放しで褒めるというのは珍しい。ユーキは思わずフェイを呆けて見ていた。
「な、何だい。いきなり、そんな風に。一応、褒めるときは僕だって褒めるからな」
「俺にも少しは向けてほしいな。その優しさ」
「少なくとも、君程度ではまだまだだね。それより大丈夫なのかい? 作戦の成否は君にかかっているといっても過言じゃない。ぶっつけ本番、何が起こるかわからない状況だぞ」
「フェイ、そこまでにしとけよ。ユーキが一番それを気にしてるんだからさ」
そう言ってマリーは、フェイの肩へと手を置く。
彼女の言う通りだ。計算で導き出すこともできないガンドの威力を感覚だけで調整する。それだけでなく、あの恐ろしいまでのオーラを放つ化け物を本当に倒せるのか不安に駆られる。平気そうな顔をしているが、今の光景を見ているだけで膝が笑いそうになる。篝火に照らされたユーキの顔は心なしか青白かった。
マリーに核心を突かれて、笑って誤魔化すこともできなかったユーキは表情が固まってしまった。流石にフェイも、ユーキの精神状態に気付いたのか一言謝ると、気まずくなってか視線をサイクロプスに向ける。サイクロプスは未だに土埃の中を彷徨いながら襲撃者を探しているように見えた。
「ユーキさん。その、あまり無茶はしないで、無理そうだったら撤退してもいいからね」
サクラの言葉に、「今すぐにでもしたいくらいだ」と本音が出そうになるが、喉元に力をぐっと入れて飲み込んだ。ここで逃げたら地上に戻るにはかなりの時間を要する。食料も尽きているパーティがいる中、偽水晶を破壊する方法は不可能だ。みな気丈に振舞っているが、実際は消耗している者が多い。この決戦で一気に決着をつける。それがこのダンジョンから抜け出す最初で最後のチャンスなのだ。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




