サイクロプス討伐戦Ⅱ
闘技場へと辿り着いた魔法学園の生徒たちは、ユーキたちの姿を見かけると真っ直ぐに走り寄ってきた。
「アンドレから聞いたぜ。さっきは助けてくれてありがとな」
「いいんだ。それよりも、この後何をするかは聞いているか?」
「あぁ、何か超デカいサイクロプスをみんなでボコボコに叩き潰せばいいんだろ?」
そう言って、青年は杖を取り出した。
地下の闘技場に放置されていたはずの武器は、ドッペルゲンガーたちがここに向かいながら回収して来て、闘技場に入る前に持ち主に返しているらしい。中には嘘をついて良い武器を貰おうとする者もいたが、ドッペルゲンガーを前に誤魔化しは効かない。
「あぁ、とりあえずは、パーティごとに最上段の所からサイクロプスに向かって魔法を撃ち続ける籠城戦だ。ただ、相手もデカいから必ずこの壁を突破してくるだろう。そしたら中央におびき寄せる。罠にかけた後、袋叩きにして一気に決める」
「そんな上手くいくかねぇ。ま、命を救ってもらった恩人だ。できるだけ協力はするが、逃げるのも自由なんだよな?」
「もちろん。ただし、こいつを倒せなければ一生、ここから出られない可能性が高いのも事実だ」
後ろで聞いていたフェイは青年の疑問に頷きながらも最後の一言を強調する。すると後ろにいた少女は杖で男の脇腹をつついた。どんなに鍛えてもくすぐったいという感覚に抵抗はできない。思わず蹲った青年を笑いながら少女が肩を叩く。
「いーじゃん。どっちにしろ、ここ一番の大物なんでしょ? だったら、参加した方が絶対楽しいじゃん」
「あのなぁ。お前のその楽しそうの一言で、何度死にかけたかわかってんだよな?」
「あはは。でも、ここで活躍できれば一応、学園の歴史に名前が刻まれそうなのは事実でしょ? だって、さっきの入り口にいた子が言ってたよ。迷宮が狂ってしまったけど、ここが最終フロアだって。つまり、未踏破ダンジョンをクリアしたパーティの一人ってことになるじゃん」
横に髪をまとめ上げた少女が楽しそうにはしゃぐ。男の方が名誉欲とかに弱いと聞くことがあるが、どうやら目の前の少女もそうなのか、はたまた祭りごとが好きなだけなのか。いずれにせよ、テンションが高い。
「ねえねえ。この階層って骨の兵士がうろちょろしてるんだよね。ちょっと倒してきて剣とか集めてきてもいいかな? まだ、時間はあるよね?」
「そ、そうですね。あと三十分くらいでアンドレも戻ってくると思いますし……」
「よーしっ。じゃあ、あたしはちょっくら武器の調達に行ってきまーす」
「あ、もう仕方ねーなっ! お前ら、とりあえずいいとこ取っといてくれ」
「うーっす」
自由奔放な少女を恐らくリーダー格の青年が追いかけていく。後に残された二人の少年少女は気だるげに手を振るとユーキたちの前を通って、観客席の階段を登っていく。
「これで十パーティ目。人数は大体四十に届かないくらいかな」
「……アンドレさんのおかげだよ。ここまで早く人を見つけて来れるなんて、どんだけ凄いんだ」
「アンドレは足も速いし、体力もあるし、頭もいい。もしかしたら君の作戦を聞いて、追加の作戦を考えているかもしれないよ」
ケヴィンが自慢そうに胸を張る。そのケヴィンも膂力こそ敵わないものの見事に敵の急所を突いて見せる知力はある。彼がここにいなければサイクロプス相手にここまでの人を集めることはできなかっただろう。
「城壁に見立てた闘技場から集中砲火を浴びせる準備は整った。囮部隊はフェイたちに任せるけど、大丈夫だな?」
「もちろん。足の速さなら、この中の誰にも負けないつもりだよ」
「我々の方も足の速い方々に化けた者ばかりです。任せてください」
フェイの後ろに付き従うのはドッペルゲンガー。それもそれぞれのパーティの中で斥候や身体強化の得意な人の姿を借り受けた者たちだった。
「危険な役目を押し付けて済みません。ただ、油断だけはしないように」
「気にしないでください。本来、殺し合わなければいけなかった人と、手を取り合って戦えるなんて奇跡があるだけで幸せです」
ドッペルゲンガーたちが頷くが、ユーキの顔は暗い。彼らは本来、普通に生まれ、人間として生を謳歌できるはずだったのに、それを握りつぶされたのだ。それも道具として使い潰されるためだけに。
ユーキには、作戦で囮として彼らを動かす自分と、彼らをドッペルゲンガーとして扱った女と違いがないように感じていた。
「ユーキ、今は気にしない。目の前のことに、集中する」
「そうだね。アイリス。ありがとう」
ユーキの胸の内を見透かすかのようにアイリスが声をかける。その言葉に意識を外へ向け、サイクロプスのことを考えようとした時、一際大きな音が響いた。
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