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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第5巻 暗黒の淵にて、明星を待つ

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自由の在処Ⅶ

 ユーキは自分の中に浮かんだ仮説をアンドレにぶつけてみることにした。


「確認したいことがある。もし、ボスを階層外に追い出すことができた場合、それは倒したという風にダンジョンが勘違いしないだろうか?」

「ダンジョン内にはいるのだから、それは無理なんじゃないのか? いや、だがボスが階層を出ることはないから、やってみないとわからないか。いやいや、そもそもどうやって……」

「俺の魔法なら階層を区切る地面を貫通させることができる。万が一、サイクロプスには通用しなくても、階層下へ叩き落すことは可能だ」


 アンドレは「何を言っているのかわからない」と顔を顰めるが、ユーキの表情を見て、本気だということは理解したようだ。剣の切っ先を地面へと置いて考えだす。


「仮に、だ。階層下に落としたとしても倒していないことには変わらない。それならば、むしろ階層を突破しない程度に威力を落として、急ごしらえの落とし穴にした方がよほど勝率があるように思える。身動きがとれないサイクロプスに全員で魔法を撃ち続ける方が、安全かつ効果的だ」

「でも、この人数じゃ……」

「いや、それなら俺が何とかしよう。幸いにも俺は顔が広いんでな。後は、最終的な戦場をどこにするかだけ決めてくれれば、何とでもなる」


 アンドレの自信に満ちた顔に、一抹の不安を覚えながらもユーキたちはケヴィンへと視線を向ける。向けられたケヴィンは一瞬怯んだが、胸を張って頷いた。


「アンドレはこんな僕でもパーティに入れて、ダンジョンの奥まで潜れるようなリーダーなんだ。それに生徒会長ほどじゃないけど、人望もあるし、きっと大丈夫!」

「そうか。ユーキ、あとは決戦場所を決めるだけだ」


 フェイに促されて、ユーキは目を閉じる。

 誘導しやすく、街の状況を把握できる高さがあること。頑丈さに長け、逃げ易く、巨体には動きづらい、余裕をもって人が集まれる場所。幸運にもその条件が揃っている場所がある。ユーキは顔を真上に向けた。


「ならば、()()()。この闘技場なら、落とし穴に入れさえすれば十分に戦える。その前に、ここを城壁代わりとして戦うことも可能だ」

「ユーキ。中に招き入れて、落とし穴にはまらなかった場合は、腕を振るだけで観客席にいる人が、全員吹き飛ばされちゃう」


 アイリスがすぐに問題点に気付くが、ユーキはニヤリと笑った。


「いや、大丈夫。必ずこっちが先制攻撃をできる状況にすればいいんだ」


 そう言ってユーキは後ろに振り向いた。それはユーキたちの最も後ろにいる人物だった。

 目を向けられた本人は訳が分からずキョトンとしている。他のメンバーも首を捻っていたが、真っ先にフェイは呆れた目でユーキを見る。


「いやいやいやいや、ユーキ。まさかとは思うけど、彼らの力を使うつもりかい?」

「そうだね。それプラスもう一捻りくらいは考えているつもりだけど」


 その言葉にだんだん周りも、ユーキが考えていることに気付き始める。アンドレとマリーは面白そうに、アイリスとケヴィンとドッペルゲンガーは表情を変えず、サクラとフェイはジト目で見ている。


「あとはここの最上階からサイクロプスが中に入ってくるまで防衛線。突破されたら中央に誘導して落とし穴作戦だな」

「中に入ってから上に登るまでに時間がかかるぞ」

「サクラの岩の槍で途中の階層まではショートカットできそうかな? 外から壁に向かって突き出せば、ちょっと急だけど登れないことはないと思う」


 サクラは呼ばれて、一瞬びくりと背中を震わせると、そのまま天井を見上げて思案した後、芳しくない表情で頷いた。


「多分、行けるとは思うけど、撃てて三発くらいかな。その後は少し魔法を撃つだけの魔力が足りないかも。ポーションを飲んだとしても、五分は撃てない……と思う」

「それだけあれば十分だ。すべてのパーティに声をかけられるわけではないことも考えれば、二つで十分だろう」


 アンドレが満足そうに頷くと剣を肩に担ぎ、飛び降りてきた階段へと向かう。階段を途中まで登った後、思い出したかのように振り返った。


「よし、それじゃあ後の作戦は任せるぞ。俺は声をかけに行ってくる。あぁ、それと覚えておくといい。今はサイクロプスに位置がばれるからやらない方がいいが、戦闘でヤバそうなときは空に火球を撃ちあげるのがSOSのサインだ。サイクロプスがここに気付いたらさっさと上げた方が人を集めるのは楽だ」

「どれくらいの時間で戻ってくる、の?」

「そうだな。状況にもよるが、一時間もかからないだろう。あまり長居してサイクロプスに追いかけられたくはないからな」


 そう言い残すと颯爽と階段の向こう側へと消えていった。


「ユーキ。あたしたちも、あの兄さんに負けてられないぜ」

「でも、登るのに時間がかかりそう」

「あ、それなら大体の構造は把握してるので、最短距離で案内するわ。ここからだと遠回りだけど、闘技場に一度出てからジャンプで登る方が楽ね」


 ドッペルゲンガーの言葉にフェイは頷くとユーキと共に階段を登る。今は一刻も早くサイクロプスの動向を探り、必要な作戦を練り出さねばならない。

 骸骨たちを踏み砕き、石畳を打つ足音が誰もいなくなった通路へと木霊していく。これがサイクロプス討伐戦の一時間二十分前のことである。

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