自由の在処Ⅴ
ユーキが曲がった道は、運よくケヴィンとドッペルゲンガーが歩いてきた方向だったため、すぐに地上の闘技場の方へと向かうことができた。
今後の最大の脅威はサイクロプスではあるが、闘技場を徘徊している骸骨兵士たちも無視できない存在だ。一体一体は弱くとも、疲れも恐怖も知らない兵士に集られれば、一騎当千の兵であっても疲弊して討ちとられる可能性がある。
「他の逃げた人たちは無事かな?」
「武器もほとんど持って逃げてなかったからな。魔法は使えるかもしれないけど、長期戦は厳しいだろう」
フェイが悔しそうに呟くが後の祭りだ。まさか、サイクロプスの巨人が出てくるとは誰が予想できるだろうか。
「フロア全てが戦場。いや、むしろこの町は巨人に対する遊撃戦用に用意されたものと考えた方がいいのか?」
「そんなのダンジョンを作った奴しか知らないよ。まずは骸骨を掃討して安全な場所を確保しないとな」
「大変、だよ」
時間をかけて戻ってきた場所は、地上の闘技場だ。まだ地上には出ていないが、階段の地上側からは時々、骸骨が出しているだろう音が聞こえてくる。
ユーキとフェイは荷物になっているエリックと女を下ろすと肩を回した。長い時間、気絶した人間を運ぶというのは、身体強化をもってしてもかなりの労力となる。疲れの色が顔に浮かび始めている二人が顔を見合わせていると、アイリスも心配そうに覗き込んできた。
二人を連れて逃げるのにも大変だったのに、ここから先は戦闘が必要になる。どうしたものかと他のメンバーも悩んでいるとウンディーネが突然呼び掛けてきた。
『何か上の様子が変です』
先程まで骨や金属が擦れたり、ぶつかったりする音が響いていたが、だんだん金属同士や何かが破壊される音が響き始める。しかも、その音は少しずつユーキたちの方へと近づいてきていた。
「みんな構えた方がよさそうだぜ。多分、戦闘の音だ」
マリーが杖を構えて、詠唱をし始める。火球を生み出す短い詠唱が終わると共に階段を骸骨の兵士の集団が雪崩れ込んできた。即座に発動した魔法が骸骨たちを弾き飛ばすが、上から滝のように次から次へと押し寄せる。
アイリス、マリーが更に続けて放つが焼け石に水。先頭の何体かが犠牲になるだけで押し寄せる勢いは止まらない。
「引きながら撃ち続けるんだ。ユーキ、こいつらはケヴィンと彼女に任せて前に出るぞ!」
「わかった。あまり無理するなよ!」
「こっちのセリフだ! 後はヤバそうだったらガンドを撃ってくれ。背に腹は代えられない!」
フェイは近づいてきた骸骨兵士の剣を受け止めると、その胸に向かって蹴りを突き出した。後ろにいた骸骨たちもその勢いに押され、ドミノ倒しのように数メートルほど倒れていく。途中で後ろから来た骸骨たちが躓いて、その場で折り重なるように積み上がるのは滑稽だが、この大群が一度に襲ってくると思うと笑ってはいられない。
「『燃え上がり、爆ぜよ。汝、何者も寄せ付けぬ――――』」
ユーキも刀で剣を受け流しながら、詠唱をして指先を骸骨たちへと向ける。ガンドを撃ちたくなるが、万が一、この通路が崩落することを考えると気楽には使えない。
「『――――一条の閃光なり』」
フェイが蹴ったタイミングで後ろへ飛び退るのを確認し、魔法を放つ。指にはめられた銀色の指輪が僅かに煌めくと、指の先から勢いよく火球が飛び出した。
火球は骸骨たちの体を燃やしながら突き進み、そのまま階段付近まで進むと一気に膨れ上がり爆風と共に炎上する。更にその後を追い打ちするかのように、後方から別の誰かが放った火球が飛んでいき、炎を避けられた骸骨たちも、もはや燃えるところがないのにも拘わらず炎に包まれていく。
「ま、まぁ、やりすぎな気がしないでもないけど、あれ全部を相手するよりはいいかな」
爆風から顔を守っていた腕を下げながらフェイは苦笑する。その足元には元の形がわからないほどに砕けた骨が散らばっていた。
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