自由の在処Ⅳ
巨大な一つ目の下で大きな口が開かれる。
「ヤット、見ツケタ」
「サイクロプス、だと!? あの大きさ、最初のゴーレムの比じゃない。デカすぎる!」
顔の大きさから推測しても体長は十メートルに届こうとしているように見えた。フェイの顔が驚愕に染まる中、真っ先にケヴィンが気絶した女を背負って元来た道へと駆け出す。ユーキもケヴィンを手伝うべく、その後を追うと、続々とその後をサクラやマリーも追いかけ始めた。
「通路に逃げれば、あの巨体も追って来れない。急いでここから離れよう」
「は、入っちゃえば大丈夫じゃないのか!?」
「あの、巨体を見ただろう? 下手をすれば、地面を掘り起こしてきかねない!」
ユーキも女の脇へと腕を差し込んで引き摺るようにして運ぶ。後ろを振り返ると全員が後をついて来ているようで、ほっとした――――瞬間、入口が轟音と共に崩れ落ちた。
「おいおい……」
一瞬にして、後方からの光が消えたことで余計に神経が研ぎ澄まされる。見えないはずのものが断頭台のように上から落ちてくるのではないかという恐怖が全員を襲った。
「まだ奥へ! このままでは危険――――」
ドッペルゲンガーが叫び終わる間もなく、さらにユーキたちの近いところへと文字通り滑り込むように金属の壁が出現した。
「まさか、あの金属……剣じゃないよな? それだったら、こんなところにいたら潰されちまう!」
「口より、足を動かす」
マリーを追い抜かしながらアイリスが駆け抜けていく。いくら通路が光っていても、明るいところから暗いところへ来ると慣れるまでに数秒かかる。足下に気を付けながら進むと、すぐに上から嫌な気配が迫ってくる。
まるで巨人が追いかけてきた足跡のように、一定のリズムでユーキたちの下へと金属の壁が出現する。少しずつ距離を詰め始めるその壁が、ユーキたちの恐怖をさらに駆り立てた。
「ケヴィン。先に行ってくれ、俺だけで運んだ方が早い!」
身体強化に回す魔力をさらに増やし、ケヴィンから女を引きはがし、ユーキがお姫様抱っこで駆けだす。後ろから近づいてくる断頭台の刃は、すぐそこまで来ていて、噴き出る汗が冷や汗なのか動いているからなのかもわからなくなる。
巨人からしてみれば、ほんの少しずつ切り刻んでいるに過ぎないが、ユーキたちからしてみれば、そのほんの少しの間が十メートル、二十メートルになるのだから笑えない。
後ろを振り返らずに走り続けていると目の前に丁字路が現れる。すぐにユーキは右の道へと曲がり抜ける。全員が走り抜けた数秒後に、また一撃が僅かな瓦礫と共に差し込まれた。次の一撃はいつかと恐れながら走り続ける。
しかし、十数秒走り続けても、なかなかその瞬間は訪れなかった。走っていた足を駆け足に、そして歩み足に、最後には止まってしまう。
「振り切ったか?」
「わ、わからない。けど……見えていないのにあそこまで、正確に襲ってくるのなら、まだ狙っていてもおかしくないと思う」
追い付いてきたサクラが肩で息をしながら、顔だけを上に向ける。ユーキも一緒に見上げるが、先ほどの嫌な気配はあまりしてこない。
「とりあえず、どうしようか?」
「水晶を壊すか、あの巨人を倒すか。そう考えると安全なのは水晶かな?」
「いや、水晶がいくつあるかわからないし、ここから抜け出す時には嫌でもアイツの影に怯えることになる。倒せるならそれに越したことはない」
フェイも抱えていたエリックを投げ落とすと大きく息を吐いた。肩で息をしながらドッペルゲンガーへと視線を向ける。その視線に気付き、ドッペルゲンガーは目を閉じると申し訳なさそうに答えた。
「残念ですが、私の方でもいくつ水晶へと変化しているかは把握していないわ。最低でも十個はあると思うのだけど」
「でも、あの一つ目さんを倒すのは、厳しそう、かな」
「せめて、抜け出すまでどっかに行ってくれてたらいいのになぁ」
皆が口々に意見を漏らす。その中でユーキは、ふとマリーの言葉に疑問を持った。
「あのさ。なんでモンスターって階層を移動しないんだろう。ここに入ってくる時には階段もあったのに」
「そういうルールが人工ダンジョンにあるんじゃない? 天然ダンジョンじゃ、外に漏れ出て村や町が滅びたなんて話はよく聞くけど、人工ダンジョンは制御されてるんだろう」
ケヴィンはメイスを杖代わりに腰を曲げながら答えると、ユーキは更に疑問をぶつける。
「じゃあさ。もし、ボスが階層を移動していなくなったら、どういう判定になるのかなって?」
「それは……ボスが消えたってなるか。ダンジョン内にいるから探し出して倒さなきゃいけないんじゃないかな?」
ユーキは考える。もしガンドで床に穴を開けて、下の階層に落とした場合、どのような扱いになるのだろうかと。今はそれを口に出さずに考えがまとまったら相談することに決め、ユーキは道の先を見つめた。まずは、ここからもう少し離れるのが先決だからだ。
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