虚実Ⅶ
最初に響いたのは爆音だった。規模はそこまで大きくなかったが、それも自分の足元や目の前で起きれば驚くのは当然だろう。
ドッペルゲンガーは前進していた者も、詠唱していた者も、みな等しく爆発したところを振り返った。そこには尻もちを着く、自らの主がいたからだ。
「い、一体何が……!?」
「悪いな。さっき最初の派手な攻撃をした後に時間が合ったから、いろんなところに地雷を仕掛けさせてもらった」
「じ、地雷……?」
「そうだな。簡単に言うと、その空間に侵入した瞬間に反応して、今みたくドカンと爆発する魔法だ。最近、開発したばかりでさ。威力の調整ができていないから、小さい音がする程度のヤツもあれば、体が粉微塵に吹き飛ぶヤツまで様々だ」
その言葉に慌てたように自分の周りを見回す。だが、魔法陣はおろか、発動媒体すら見つけることができずに足が根を張ったように動かなくなっている。視線だけが左右にくまなく動き続けるが、糸口すら見つけられずに、右往左往しているのが傍から見ていてもわかった。
どんなに高位の魔法使いが探しても見つけられるはずがない。それを見つけることができるのは、今やユーキとウンディーネの二人のみだ。
そして、何よりも酷いのは、そのような魔法が存在しないことだ。
「(ま、フランに感謝だな)」
第二段階。いかに相手に姿を隠させないか。ユーキは魔眼で相手を追うことができるが、それ以外の人は誰も女を見ることができない。数的有利を活かすには何としてもクリアしなくてはならず、また逃がさないためにも最低限クリアしなければいけない条件だった。
そんな中で魔眼で観察していた時に外套の放つ光が、ユーキには全身より広い範囲に存在していることに気付いた。
姿を隠すのが外套の能力ならば本来は外套だけが透明になるはずだ。しかし、不思議なことに頭のてっぺんから足の先まで、服も靴も透明になっているし、持っていたお札も投げつけるまでは透明になっていた。
つまり、外套の機能は透明になることではなく。外套を着ている者が装備していると判断できるものを透明にする能力。
それならば、一度触れた物を外套が自動的に判断していると考えてもおかしくない。いちいち、装着者が判断するのは面倒だからだ。
触れた者に装着者の魔力を微量に流して判断する。恐らくは、装着者が持てるだろうと認識できる重さ、サイズのものであれば全て。それが例え地面に転がる石のようなものであろうとも、だ。
ユーキは地面に転がる十数個の輝きを放つ石を魔眼で追う。それはウンディーネが操る水によって少しずつ場所を変えていた。
「(まさか大量に預けられた爆破石がこんなところで役に立つとは思ってなかった)」
外套の自動判断のための魔力に反応して、爆破石のマナが爆発する。それは敵の女に対してのみ有効な地雷として機能していた。
しかし、ユーキの言葉に誘導され、ドッペルゲンガーたちも迂闊に動くことができない。そんな中で爆破石が一つ、女の近くにまで移動を完了した。
「さて、このままみんな爆散するか、俺の魔法に射抜かれるか。それとも、刀の錆となるか。どれが好みだ?」
「ひっ……!?」
抜き身の刀で指し示された女は思わず後ずさる。そこへ、ウンディーネが寄せた爆破石が炸裂する。女が前のめりに吹き飛ぶと僅かに外套に異変が生じた。万が一、形振り構わず逃げられてもいいように魔眼を開いていたユーキは、その変化を見抜いた。
そこへダメ押しとばかりにマリーの放った火球が押し寄せる。八つの火球の内、三つが倒れた背中へと殺到する。
「がはっ!?」
衝撃で地面に押し付けられると、肺の中の空気が押し出され、唾液と共に吐き出される。その背中は既に効果を失い、防御力もなくなっていたためか外套が焦げて穴が開き、その淵は炎が燻っていた。
「(……あれー?)」
ここでユーキは計画が狂い始めたことに気付く。この女、意外にビビりで、隠れてコソコソ戦うのは旨いが、正面切っての戦いは苦手なのではないか、と。
目の前にいるドッペルゲンガーたちも動くわけにはいかず、かといって助けに行くわけにもいかず。唯一動ける魔法使いのドッペルゲンガーたちは棒立ち状態である。
余裕で制圧できた状況に喜ぶべきなのだが、嫌な予感がユーキの頭の片隅でモヤモヤと居座っていた。何か見落としていることはないか。そう考えたユーキであったが、それは既に手遅れだった。
「動くな」
ユーキの背後から声がかかった。首だけそちらに向けると、フェイ、サクラ、マリー、アイリスがそれぞれ二人ずつ並び、更にもう一人そこに立っている男が視界に入る。
「久しぶりだな。聴講生」
「お前は……エリックか」
生徒会書記長のエリックが、ユーキに杖を突きつけている姿だった。
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