虚実Ⅲ
四つの内の一つのトンネルへと足を踏み入れると、靴の音が反響して返って来た。僅かに進んで短い階段を降り、更に奥まで続くトンネルへと足を進める。等間隔で置かれた松明が唯一の光源となるが、トンネルの先を見通すことはできない。
ユーキは服が軽く引っ張られる感覚に振り返ると、はっとした。
「大丈夫?」
「そ、その、やっぱり、こういう場所は慣れなくて」
「じゃあ、このままでいいよ。ただし、戦闘になりそうな時は、マリーにお願いしようかな」
視線を送ると親指を上げて、マリーも同意する。
左手にサクラ、右手に刀。異色な組み合わせに戸惑いつつもユーキは前方を魔眼で睨む。暗闇の先は生物が蠢く様子は見られない。それでも何かがあると、ユーキの勘が告げていた。
「何か、いる?」
「いや、見る限りは一本道だ」
ゆっくりと警戒して進むフェイは剣を構えたまま、振り返らずに返事をする。緊張感が続く中、ゆっくりと数十メートル進むと、更に先に壁が見えてきた。
「分かれ道か。どちらに行こうか」
曲がり角を覗き込んで安全を確認するとフェイは後ろに確認をする。マリーの任せるの一言で、フェイは右へと体を乗り出した。
全員がそれに続いて数歩近付いた時、反対側の道から微かに音が聞こえて来る。ユーキは刀を構えて、マリーやアイリスの前へと進み出た。
だんだんと近づいてくる音が大きくなると、トンネルの奥から人影が走ってくるのが確認できる。
「動くなっ!」
「――――!?」
近づいてきた人物は剣を構えると、その場で止まる。お互いに間合いはかなりあるため、どんなに早くても攻撃を放つのは不可能だ。
「そちらは、どこのパーティだ?」
暗くて遠い為、お互いの顔もはっきりと認識できない。相手は構えたままゆっくりと歩を進めてきている。
「こっちは魔法学園一年生のパーティだぜ。そちらこそ、どこのどいつだ?」
「失礼。魔法学園の三年、アンドレ。パーティは壊滅した。今は仲間を探して彷徨っている」
マリーが返事をすると、相手も同じように返答する。声が反響する中、お互いに警戒度が上がっていく。そんな中、ユーキは魔眼でその姿をじっと見つめた。
「そのパーティのメンバーは?」
「リーダーの俺。壁役のクレイ、斥候のジェット、神官見習いのケヴィン、四名構成だ。手がかりを知っていたら教えてほしい」
マリーがアイリスとフェイに目線を送ると二人とも頷いた。
「あたしは、マリー。ローレンス伯爵の娘だ。ケヴィンならこの階層で別れた。あんたを探すために単独行動をしている」
「馬鹿なっ!? あいつ、死にたいのか?」
その言葉にアンドレが動揺した声を漏らす。五人は演技かどうか疑っていたが、すぐにユーキが声をかけた。
「こっちも情報を出した。そちらの知っている情報を教えてくれると助かる」
「そ、そうだな。何が聞きたい?」
「どうやって生き残った?」
ユーキの問いにアンドレが暫く黙る。その内心を見透かしたように、ユーキは更に声をかけた。
「ケヴィンから話は聞いている。『仲間に化けた偽物と戦って僕を逃がした』と」
「そうか。それなら話は簡単だな。この剣で退けた。残念ながら息の根は止められなかったがな。その後は戦闘で水晶が割れてしまったから、別の場所を探して進んでいたら、ここに辿り着いた」
アンドレはユーキの問いに応えつつも、その歩みを止めずに近寄ってくる。その距離はついに、十メートルを切っていた。
ユーキの後ろで誰かが動く気配を感じた。恐らく、杖を構えたのだろう。詠唱する声が聞こえてきた。
「待て、争うつもりはない。君たちが俺を、その化けるモンスターと疑うのも無理はない話だ」
流石のアンドレも歩みを止めた。松明に照らされた明かりが、紫の髪を照らし出す。疲労の色こそ浮かんでいたが、その表情には強い意思が感じられた。仲間と共に生きてここを出るという意思だ。
「お互いを信じられない以上、合流するべきではない。僕たちはこの先に行く。あなたが別の道を行けば、同士討ちを行わずに済む」
「そうだな。情報感謝する。お互い、生きてここを出よう」
「……幸運を」
その表情に何かを感じたのか。フェイは最後に一言、絞り出すように声をかけた。
アンドレは振り返ることなく、ユーキたちが来た道へと走っていく。そんな背中をユーキは魔眼で見つめていた。
「彼は、本物か?」
その瞳にはゴブリンキングやトレントのような黒い靄は見られなかった。爪先から頭まで黄色の輝きを放っていたのが、今でも網膜に焼き付いている。
ユーキも心の中でアンドレの無事を祈りつつ、踵を返して前へと進む。トンネルの先はまだ先へと続いていた。
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