深まる疑念Ⅲ
アルト経由で伝えられたのは、聖剣の森の調査の依頼だった。
勇者たちの残された数少ない情報によると、どの勇者も聖剣を引き抜いた後は――約一名、例外がいるが――カルディアの街を出発し、各地の村や町を訪れて、何か事件が起きていないかを調査していたという。
当然、その目的は魔王を探すことなのだが、大抵はその土地における固有の問題――魔物の増加や食糧不足、領主の圧政など――を解決することになるという。
「ですが、エトナ様の――」
『おいおい、別にエトナで良いぜ。聖剣様とか言われるのもむず痒くて敵わん。これから命を預けて一緒にやってくんだから、フランクに行こうぜ』
「――安置されていた森では、聖剣を抜いたことによる影響がまだ続くのではないかという心配があります。幸いなことに、サケルラクリマ各地の冒険者ギルドからは、緊急で動かなければならない事件は発生していないとのこと」
アルトは一瞬だけ戸惑った様子を見せるが、そのまま話を続ける。
聖剣はマックスの近くにいたウッドに、「つれないねぇ」と落胆の言葉を零すが、流石のウッドも空気を読めと言わんばかりに苦笑いしている。
勇輝たちもマックスたちも現状やることがないので、手伝うことはやぶさかではない。しかし、十名にも満たない人数で何ができるのか、と誰もが首を傾げる。
「神殿騎士、神官はもちろん、冒険者ギルドを介して集まった冒険者たち。可能な限りの戦力を投入しての大規模調査になります。それで何もなければ問題なし。安心して、この街を発つことができるというわけです」
「ソフィアさんの言うことも一理ある。アレだけヤバそうな魔物が一斉に動き出したんだから、警戒しておいても無駄じゃないはずです」
「――とはいえ、そちらの二人には想定以上に動いてもらっている部分が大きい。大事には至らなかったですが、かなり危険な目に遭わせてしまったことは、枢機卿たちも心を痛めていました。お二人にはゆっくり休んでいただいて、ファンメル王国に戻ってもらうようにとのことです」
もう十分働いた、ということだろう。それを否定するつもりはないが、ここまで来てしまうと、最後まで関わりたくなるのが人の性というものだ。
しかし、ここで参加を表明しようものなら桜からの鋭い視線が飛んでくることは間違いない。
「せっかくカルディアの街に来たんです。新婚旅行デートと言うのはいかがですか?」
「「なっ!?」」
アルトの提案に勇輝と桜の顔が一気に真っ赤に染まる。
それを聞いて、ウッドが一転、ひまわりのように笑顔を咲かせる。
「そりゃあいい。確かファンメル王国の貴族も結婚祝いの旅行先の候補にカルディアの街を選ぶって聞いたことがあるぞ。こんなチャンス滅多にないんだ。お言葉に甘えておけよ」
桜の御機嫌もついでに取っておけと付け加えられる。おまけにレナがそれを聞いて小さく頷くのだから、拒否のしようがない。
「前回、街を案内した時は、勇者像の確認ということがありましたので、落ち着いてみて回ることもできませんでしたね。その時に比べれば、ゆっくりと過ごせると思いますよ」
アルトの善意百パーセントの笑みを受けては、勇輝も桜も逃げ場はない。
周囲の謎の圧力を受けて、二人の選択は頷く以外ありえなかった。
「じゃあ、桜。その、そういうことで、いいか?」
「ちょっと、デートに誘うなら、それ相応の言葉があるでしょ。ほら、みんな。ここは二人を邪魔しないように、マックスの部屋に移動しましょう!」
あれよ、あれよと言う間に人がいなくなり、残されたのは勇輝たち二人になってしまった。
扉が閉まった後、見下ろして来る桜と視線が合う。事前に準備していたならともかく、急にデートに誘えと言われても、気の利く言葉など考えつくはずがない。
それでも桜から視線を外すことなく、勇輝の頭脳は戦闘の時よりも激しく思考を巡らせる。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




