進撃Ⅵ
ケヴィンが手を挙げると、申し訳なさそうに言った。
「僕は……まだアンドレがどこかに捕まっている可能性を信じたい。それはこの先にある場所かもしれないし、地下かもしれないし、ここではないかもしれない。いずれにせよ、このまま纏まって行動するのは安全だけど、時間がかかり過ぎる」
「戦力を分散したら、それこそ敵の思う壺。わかってるはず、だよ」
アイリスの言う通りだ。もし、ここで敵が仲間と入れ替わってしまったら、もう取り返しはつかない。恐らく、いとも簡単にパーティは全滅するだろう。
「そうだね。でも、ここからはお別れだ。僕だけで行く」
「ケヴィンさん。それは……」
「いいんだ。君たちは脱出を優先してくれ。僕は、助けてくれたアンドレたちを助ける。今度は僕の番なんだ。ユーキ君、後は頼んだ」
ケヴィンはユーキを見つめて言った。その手足は震えていて、今にも崩れ落ちそうだ。後ろで見ているマリーは、そのことを指摘しようとしたが、アイリスが袖を引っ張って首を振る。
ユーキは開きかけた口を一度閉じた。かける言葉がなかなか見つからない。何とかして絞り出した言葉はたった一言。
「無理するなよ」
「それは……無理な話だね」
その言葉を最後にケヴィンはフェイの制止も聞かずに、左の道へと走り始めていった。
「あいつ、最初はみんな死んだなんて悲観的だったのに……どうしたんだ?」
「そのことなんだけど、みんな聞いてほしいことがある」
ユーキは魔眼を開いた眼で一人一人を見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「これは……賭けだ」
時間のない中でのケヴィンなりの判断だった。話し合えば最善の方法があったかもしれないが、今それを言っても仕方ない。既にケヴィンはこの場を離れ、賽は投げられてしまった。
「チャンスは一度。失敗したら、振出しに戻ってしまう。それでも、やってみる価値はあると思う」
ユーキはケヴィンから与えられた情報から推察した作戦を提示する。しばらく、沈黙が場を支配していたが、最初に口を開いたのはフェイだった。
「無謀過ぎる上に、作戦が穴だらけだ。よくそれで動こうと思ったな」
「俺もそう思うよ。でも、この中の誰よりもケヴィンが一番、敵のことを知っているんだから、それを信じたいと思うのは駄目か?」
「何か……引っかかるんだよなぁ」
サクラが顎に手を当てながら思案する。その瞳はユーキへとまっすぐ向けられていた。その視線にユーキの心臓が跳ねる。一歩サクラは近づくと、ユーキをじっと見つめた。
「ユーキさん、何か隠してない?」
「この状況で言えないことっていうと、自分の魔眼のことくらいさ」
揺らぎそうになる視線を押さえて、サクラを見つめ返す。数秒間、見つめあっていると、横からマリーが割り込んだ。
「はいはい、そういうのはいいから。とりあえず、さっさと進もうぜ。ちなみにあたし的には反対側の右から行くと効率的だ、って提案しておく」
「そうだな。ここで止まっている時間ももったいない。先を急ごう」
ユーキは歩き始めたフェイを追いかける。後ろを少し見ると、サクラがまだユーキから視線を外してなかった。
『なるほど、損な役割ですね』
「良いよ。それより、援護は任せるからね」
『わかりました。そちらは最後まで油断しないでくださいね』
ウンディーネと周りに悟られないように話を手短に済ませ、ユーキはフェイの横へと並んだ。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「なるようにしかならない」
「一応、命がかかってるんだけど、ずいぶんと冷静だな」
「まだ実感がわいてないだけだよ。それよりも――――」
ユーキは刀を握る手に力を籠める。目の前には複数の道が現れた。それも二つや三つではない。上と下に続く階段に三つの通路。幸いなことに敵の気配はしていない。
「挟み撃ちどころか囲まれて袋叩きに遭いそうだな」
「どうする、の?」
アイリスが悩んで立ち止まったフェイへと問いかける。流石に未知のダンジョンでは踏破する攻略法など簡単にはわからない。フェイが悩んでいるとサクラが小さく声を上げた。
「とりあえず一番上まで上がったら、ダンジョンの様子を見ることができないかな? 外から見た感じだと中は空洞っぽかったし」
「あぁ、言われてみれば獣人の人たちが好きな武闘大会の会場に似てるな。昔、父さんに連れて行ってもらったことがあるけど、階段状に観客席があって、スゴイ人数が入るんだ」
「通路は、こんな感じ?」
「いーや、もっとわかりやすかったね。多分、ここの通路自体はダンジョンと同じで入り組んでるんだろ」
手を左右にうねらせながらマリーはため息をついた。時間がないというのに、さらに時間を浪費しなければいけないことが確定したのは、精神的にきついものがある。
「サクラの案を採用しよう。まずは上に登る。もしかしたら、そのまま次の階層への階段が、なんてこともあるかもしれないからね」
「ここの階層が、怪しい」
アイリスは分かれ道の中央へと進み、首を左右に振って道を確かめる。どうやらアイリス的には、ここの階層に何かあることを感じているのかもしれない。
フェイは後から戻って来れることを強調し、アイリスを追い越して目の前の階段に足をかけた。
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