進撃Ⅴ
会敵することなく、緩やかなカーブの道に沿っていくと、小さい広場のような場所に出た。朝などに来れば、市場でもやっていそうな程度には開けているが、そこでも敵の姿は見えなかった。
「いくらなんでも、ここまで敵と会わないのは出来過ぎてないか?」
「そうだな。嫌な予感で済めばいいんだけど」
建物の壁に沿って広場を覗き込むが、人影も争った跡すらも見えない。ユーキの魔眼で見ても、何一つおかしなところはなかった。
「あのデカい建物もすぐ近くだし、一気に行ってもいいのでは?」
後ろからケヴィンが提案すると、フェイも当初の早さ優先と言った自分の言葉を思い出したのか、ユーキに目配せする。
互いに頷くと広場へとフェイが飛び出して行く。遅れないようにユーキたちも続いて出ると、目標としている建築物が、想像よりもはるかに大きいことに驚かされる。
「(俺が昔見たことあるやつよりも、二回りほどデカいぞ!?)」
もしかすると、あの建築物もダンジョンなのかもしれないという錯覚に陥る。まるでダンジョンを目指すためにダンジョンを潜っている気分だ。思わず視線が上寄りになっていたユーキは、フェイの声に我に返る。
「次の道を左に行けば目的地だ。油断するなよ……!?」
二つの道が交差するところへ、更にユーキたちが来た道が斜めに交わる。フェイが警戒して速度を落とした瞬間、後ろからカラコロと乾いた音が鳴り響いた。
「が、骸骨!? し、しかも武装してる!?」
一番後ろにいたケヴィンが悲鳴を上げる。その様子にアイリスはジト目をする。
「あなた、装備がメイスなら、神官とかを目指してるはず。むしろ、得意な敵」
「死者が動くなんてありえません。そんな敵の対処法は無理ですー」
口調も変わって慌てるケヴィンの横に、マリーの杖が突き出される。
「フェイ。やっちゃっていいよね」
「いや、先に進もう! 他の道からもどんどん出現し始めた」
慌ててマリーが後ろを見ると、左右に見える道から今いる場所へと、十数体の骸骨が群れを成して近づいてきていた。
「あの建物の方向からは敵が来ていない。今なら正面突破で逃げた方が行ける!」
「そうだな。ユーキの言う通り、前方に火力を集中。一撃加えた後、一気に突破するぞ。動きが遅いから放った後に走るんだ。僕とユーキは、そこからさらに突破口をこじ開ける!」
サクラたちの魔法の詠唱が始まる中、フェイはユーキと共に射線を開けて腰を落とす。互いに魔力が体を満たし、身体強化の効果が上がっていく。
杖が振り下ろされると同時に、ユーキとフェイは走り出した。目の前にいくつもの爆風が巻き起こる。割れた石の破片が飛び散るが、骸骨の群れはまだ健在だった。
「うおおおおっ!」
フェイが陣形の崩れた場所に向かって飛び込むと、普段の剣とは違って力任せに骸骨を殴り飛ばした。吹き飛んだ骸骨はよろけていた他の骸骨にぶつかり、ドミノのように地面へと倒れていく。
対してユーキは、振り下ろしてきた片手剣を刀で弾くとそのままショルダータックルで同様に押し出す。フェイほどではないが、巻き込まれた骸骨たちはたたらを踏んで隙ができた。
二人が広げた道を急いで四人が通り過ぎていく。視界の隅で全員が通ったことを確認すると、ユーキとフェイも後を追うように走り出す。骸骨たちは向きを変えてゆっくりと追いかけてくるが、その緩慢な動きと遠距離攻撃手段を持たないことが故に、何の脅威にもなり得なかった。
「――――マズイな」
フェイが焦ったようにスピードを上げて、サクラたちに追いつこうとする。ユーキもそれに遅れまいと足の回転を上げて、手を振りぬいていく。
「何が?」
「明らかに、誘われている。こちらにだけわざと敵を配置しないなんて、罠しかありえない。だけど……」
フェイは悔し気に顔を歪ませる。僅かに悩んだ後、吐き捨てるように言い放った。
「……前に進むしか道はない」
「そうだな」
押しつぶさんとばかりに眼前に広がる建造物を前に、さらにスピードを上げる。近づいていくと、まるでライオンの口のように入口が大きく開かれ、ユーキたちを歓迎していた。怪しみながらも建物の入り口に駆けこんでいくと、道は左右、そして前方へと三つの方向に広がっている。
後ろを振り返って安全を確認したユーキはみんなに尋ねた。
「もし、このまま進めば多分、闘技場みたいな開けた場所に出て、攻撃を受ける可能性があるかもしれない。左右のどちらかに進んで、観客席みたいな場所から様子を見るのがいいと思うんだけど、どう思う?」
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