進撃Ⅳ
「下手に選択肢が増えるより、身体強化に魔力を回す余裕ができた。いざってときは、まぁ、撃ってしまってもいいんじゃないかな?」
「お前、他人事だと思ってるだろ」
「いや、むしろ僕と同じ剣士として、戦う仲間が増えて嬉しいと思ってるところさ。必要なら君の身体強化の上位版を教えてあげるよ」
「……それは、また今度お願いすることにしとくわ」
フェイが笑うとゆっくりと立ち上がった。
「敵はどうやら、ユーキの開けた大穴に夢中だ。後は目的地だけど、一番怪しそうなのはアレだと思っていい」
フェイは塀の上に飛び出て見える大きな建造物を親指で示した。巨大な円形の建物、周りの建築物から推察するとユーキは、ローマの闘技場が頭に浮かんだ。それと同クラスの大きさならば百人以上を収容するなり、見張るなりするには十分すぎる広さだろう。
パシャリという音がすると塀の向こう側へ水たまりができていた。その音と共にユーキの胸元が少し動いた気がした。
「……お疲れ様」
『これくらい、どうってことないです。でも、あまり動き過ぎると心配させてしまいますから、また精霊石に戻っていますね』
「了解」
道の先に敵がいないかを見ていたフェイは、ユーキを手で招き寄せると作戦を伝えた。どうやら、ウンディーネと話していた僅かな時間で考えていたようだった。
「ここから先の道をまっすぐ行くと途中で必ず三叉路や丁字路、四辻になるところが存在するはずだ。君が右、僕が左を警戒する。それ以外の時も君は右側の建物を警戒して、僕が左を見る。後ろの人には上空や後ろを警戒してもらう」
「わかった。建物に入って隠れながら行くか?」
「時間が惜しい。いつ敵が戻ってくるかわからない以上、早さ優先で行こう。あまり時間をかけない方が良さそうだ。僕は他の人にも説明してくる。少し見張りを頼む」
フェイが説明をしている間に、ユーキは魔眼を開いて辺りを見回す。最初にダンジョンに入った時と同じような魔法陣たちが空を覆っているのが見えた。そのたくさんの魔法陣に指令を飛ばすかのように、時折、これから目指す建造物から赤い光が迸る。
不思議そうに見ていると、不意にユーキの肩をケヴィンが叩いた。その顔には怯えているようで、同時に、どこか覚悟を決めたような複雑な表情が浮かんでいる。
「いいかい、ユーキ君。もし僕の仲間と出会っても、武器を下ろしちゃだめだからね」
「それは、もしかして……」
「あと僕が、いや、君の仲間もそうだ。万が一、はぐれたときに再会しても、すぐに信用をしてはいけない。服や武器の汚れとかを見ると判別がつく。あいつらは完璧に人に化けることができるけど、そういう細かいところまでは真似できないはずだ。あくまで化けた本人の見た目だけなんだ」
「どうして、それを俺だけに……?」
「全員が知っていたら、それを知られてしまうかもしれない。だから、この中で一番攻撃方法が多彩な君に、それを伝えておこうと思ってね。後は、僕なりの勘、かな」
ユーキの返事を聞かずにケヴィンは踵を返すとサクラたちの後ろ側へと向かった。回復ができるケヴィンなら中央にいた方が便利なのに、と思いながらもユーキは向かってくるフェイへと向き直った。
「いくぞ。できるだけ、どちらか一方の壁際に寄って姿を見られない様にしよう。その判断は僕が合図するから、ユーキは警戒に専念してくれ」
「……すごいな」
「何がだい」
ユーキが思わず思ったことを口にすると、フェイは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔になる。
「いや、いくら騎士団に所属しているとはいえ、こう、すぐに作戦とか立てられるのは、すごいなって」
「――――ほ、褒めたって、何もないからな」
顔を背けるとフェイは合図をすることなく道へと飛び出して行ってしまう。ユーキを始め、慌ててフェイを追いかける。
駆け足で進んで行くと、ダンジョンとはいえ街の細部までがよく作り込まれていることがわかった。人影は見当たらないが、ついさっきまで人が行き交っていたと思わせるような道と、その脇に並ぶ建築物。
逆に言えば、いつどこから敵が襲ってきてもおかしくはないという緊迫感に襲われる。視線を張り巡らしながら進んでいくと、まっすぐな道から弧を描くような道へと変化した。
「他に、分かれ道はなさそうだね」
「前進あるのみってやつだぜ。わかりやすくて、迷いにくいしな」
後ろから聞こえてくる声を耳にしつつ、ユーキとフェイはそのまま速度を落とさず、その先の道へと足を進めていく。駆けていく足が僅かに砂を巻き上げ、それが消える頃には、ユーキたちの姿はもう十数メートルも前に進んでいた。
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