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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第5巻 暗黒の淵にて、明星を待つ

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進撃Ⅲ

 扉に耳を当てると金属が擦れる音や扉が震えるような音が聞こえた。


「いきなり開けるには勇気がいるな」

「愛の言葉でも耳元で囁けば勇気が出て来るかもよ? ほら、サクラ言ってやれって」

「真面目に」

「はーい」


 マリーのくだらない冗談を軽く流して、もう一度耳を澄ませる。それでも聞こえてくる音に変わりはなく、残念ながら情報を得ることは難しかった。


『では、ここは私の出番ですね』

「なにを!?」


 ユーキが扉から耳を話すと同時に、床へと水が広がっていく。そのまま床を伝い、扉の僅かな隙間を潜り抜けてしまう。


『ダンジョン形態は遺跡群。石造りの建物が多数並び、遠くには巨大な建築物があります。近くに敵はいません。それと……扉越しに感じた衝撃が全くないようです』


 ケヴィン以外に聞こえるように語り掛けていたのか、フェイがゆっくりと扉を開ける。扉の隙間から除く限りでは、半円形の壁に囲まれた広場のような場所に見えた。


「よかったな。もしここに敵が配置されていたら、間違いなく死んでいたよ」

「右から正面、そして左まで敵を揃えて射撃すれば、どんな人間でも避けられない。確実に初手で決めるような場所だ」


 ケヴィンが冷や汗を出しながら、ゆっくりと前は進む。そのまま、急いで正面にある階段を上るが敵の姿は見当たらない。フェイはすぐに手で指示を出して、近くにある塀で囲まれた場所へと移動する。


「かなり広い。それに街のような造りをしているから、遮蔽物で隠れやすくもあれば、見つけにくくもある。むしろ、地の利は相手にある分、こちらが見つけられて先制攻撃をされる確率の方が高いと思う」

「だけど、ここで引き返すのは悪手だぜ。あの階層に戻るなら、まだ先に進んだ方がやりやすい」


 地獄のマラソンを思わせる苦行を思い出したのか、ケヴィンも同意して激しく首を縦に振る。


「でも、ここまで大規模なところなのに、モンスターの気配が全然ないのは何でかな?」

「何かがモンスターを引き付けているのか。それとも、モンスターを倒している人たちがいるのか。どっちにしても、ここにいちゃわからないな」


 ユーキが唸るとアイリスが空を指差した。


「煙、上がってる」

「火事か?」


 近いところではないが、空に微かに黒煙が立ち上っていた。何があるのかと思っていると、ウンディーネが既に高いところへと昇っていたのか、すぐに連絡が来る。


『ここからかなり離れたところで崩落があったようです。ダンジョンのエリアの端が落ちて、いくつか掛けられていた魔法が暴発して、火災が起こっているみたいですね。一応、ダンジョンは修復機能がありますが、戻るにはだいぶ時間がかかるでしょう。モンスターもそれに引き寄せられているのではないですか?』

「……あっ」


 ウンディーネの報告を聞いて、しばらく考え込んでいたサクラが唐突に声を上げた。何事かとみんなの視線がサクラに集まると、サクラ自身の視線はユーキへと向けられた。


「え、俺?」

「ユーキさん。覚えてる? ルーカス先生に呼び出された時のこと」

「あぁ、あれか。魔法の実験中に学園の結界壊しちゃったやつ」

「待ってくれ。君、そんなすごいことしてたのかい?」


 ケヴィンが驚愕して目を見開くが、そんなことはお構いなしにサクラは言葉を続ける。


「ダンジョンの構造は未だによくわかっていないんだけど、一つ言われているのは、こういう人工ダンジョンには凄い種類の結界が張り巡らされているの」

「……まさか」


 ユーキの背中に冷たいものが流れ落ちる。話の流れでフェイもようやく事態を把握したらしい。


「なるほどね。ユーキ、さっき君がトレントに放って外したガンド。()()()()()()?」


 ここが本来あるべき場所だったのならば、空の彼方に消えていき、魔力が霧散しただけで済んだだろう。だが、ここはダンジョン内。見えないだけで天井も壁という行き止まりも存在する。

 学園の結界を壊した時は、ほんの少しの魔力とデコピンで弾き飛ばす程度の速度だった。だが今回は、一瞬で溜め込めるだけの魔力を込めて、全力で放っていたはずだ。その前提で考えると辻褄が合わないことはない。


「え、えーと……」

「そのおかげで、敵もいない中で侵入できた。ぐっじょぶ」


 アイリスの言葉に救われた気持ちがないわけでもないが、一歩間違えればダンジョンを完全破壊していた可能性を考えると、これから迂闊にガンドを放つことはできなくなってしまう。

 一難去って、また一難。戦闘スタイルをここに来て変えることになるとは思っていなかったので、頭を抱えてしまった。

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