疲労困憊Ⅱ
森の中を歩いている中で、勇輝と桜はある疑問に行きつく。
勇者の試練が待ち構えているダンジョンが自然発生のダンジョンに侵食されるだろうか、と。
「さっきまで戦っていたラドンって魔物は、魔王の配下だったって言ってたから、魔王が試練をクリアさせないために妨害していたって考えられない?」
「……以前、バジリスクがこの街に侵攻してきたこともあったんだよな。それを考えると、この街自体を狙うという考えは魔王も持っていただろうし、別の手段を使ったとすれば辻褄は合うなぁ」
勇者を直接殺すのに失敗したら、今度は勇者にする仕組みを破壊しに来る。手段としては遠回しだが、だからこそわかることがある。
少なくとも、魔王という存在は人間のように知性を持っている。そして、恐ろしいことに、それを実行するだけの力もある。
「それを前提にして考えると、魔王はダンジョンを狙って作る能力があるってことだよな。流石に地下を流れる膨大な魔力を操るのは無理だろうから、何かしら方法がありそうだけど……」
「和の国で式神がダンジョンを作る核になったこともあるから、そういう魔道具を作ることができれば実行できるんじゃないかな?」
桜の妹の杏子は、普段から式神を操る修行をしていた。その式神がダンジョンの核――階層ボスを繋ぎとめる存在になってしまったことがある。
その際に階層ボスであった鬼は、怒りや嫉妬に歪んだ気持ちが原因だと告げていた。人間に何度も討伐されている魔王ならば、復讐という名の強い感情は持ち合わせていないはずがない。
「興味深いですね。ダンジョンを作る魔道具ですか」
後ろを歩いていたアルトが、速度を上げて、勇輝たちの近くにまで寄って来る。
揺れる銀髪の下で、灰色の瞳が鋭い光を放っていた。
「この森は聖剣のおかげで魔物が湧きにくいとか聞いたけど、外から来た魔物に魔道具を持たせていたら可能だよな?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言えます。外からの魔物も一定の距離には近付けないと言われていますから。先程のダンジョンの位置だと……恐らく、普通の魔物では無理でしょうね」
普通の魔物、というところに勇輝はひっかかりを覚えた。
普通ではない魔物ならば、侵入できるというように聞こえる。そう例えば――
「ラドンみたいに強力な魔物なら、突破できるとか?」
「ドラゴンクラスならば、十分可能ですね。でも、そこまで強力な存在ならば、森を見張っている神殿騎士が見逃すはずがありません」
交代制での見張りとはいえ、人の目が届く場所には限界がある。そうなると、結界か何かで魔物の出入りをチェックしていると考えるのが妥当だろう。
「その……地下を掘って進むタイプの魔物も見たことがあります。それも感知できるんですか?」
桜の問いかけにアルトは声を詰まらせた。流石にカルディアの街を守る結界であっても、その全て把握していないらしい。
「……さっきのラドン。頭部の触手だけで動いていたけど、あの状態で侵入して、地下空間の空洞を進んでいたのだとしたらできなくはなさそうだな」
「そのまま、階層ボスになることもできそうだものね」
再生能力に近い力を持っていたことも考えると、時間をかけてあのサイズまで元に戻ったと考えれば不思議ではない。
その考えを示すと、ソフィアが神妙な顔つきでアルトに語り掛ける。
「アルト様。お二人の言う通り、その可能性は捨てきれません。一応、枢機卿たちにも伝えるべきだと思いますが……」
「場合によっては、結界の作り方を根本から作り直さないといけないかもしれないですね。神官たちにも動いてもらわないと」
地下をも範囲に入れる新魔法の開発。とても一朝一夕でできるような代物ではないが、最初の一歩を踏み出さなければ始まらない。その点において、アルトとソフィアの決断は間違っていなかったと言える。
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